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第2話    「不老の魔法」を語った天才、基礎不足で人生ごと崩壊しました

「僕はもう、お前と顔を合わせたくない。婚約は破棄させてもらう。お前の代わりとして僕が選ぶのは、彼女だ!」


Aが婚約者を指さしながら破棄を宣言し、その先にいた別家の令嬢を選ぶ。


すると、その令嬢もまた、自身の婚約者を切り捨てた。


「ええ、同感ですわ。私も真実の愛を貫くため、私の婚約者と婚約破棄させていただきます」


と自身の婚約者に冷たい視線を送る。


――ざわり、と会場が揺れた。


ここは、マリーゴールド公爵家主催の夜会。


その場で、まさかの“ダブル婚約破棄”が宣言されたのだ。


「ぶふっ」


思わず、口に含んでいたワインを吹き出した。


「お嬢様、夜会の場でそれはアウトです」


「大丈夫よ。私は二十九歳の行き遅れだもの。多少の醜態は許されるわ」


「口から吹き出すのは、平民でも許されません」


護衛騎士の冷静なツッコミを受け流しながら、私は目を細めた。


・・・・身内だけの夜会とはいえ、調子に乗りすぎよね。


今回の騒動は、私の派閥内の話。


だからこそ、余計に苛立つ。


舐められているのかしら?私。


――そして。


「やっぱりこうなったわね」


私は小さくため息をつく。


事の発端はこうだ。


婚約破棄宣言をしたAは美貌で知られる令息。


女性の扱いも上手く、常に周囲には令嬢たちが集まっている。


そして、そのAに選ばれたのが、別の婚約者を持つ貴族令嬢だった。


Aは、魔力制御にも長けており、土属性と水属性を使った繊細な魔法で“肌に潤いを与える”という芸当までやってのける。


言わば、美肌魔法というべきか。


その効果は絶大で、若い令嬢はもちろん、貴族夫人や未亡人までも虜にしていた。


対して、Bは、見た目も会話も平凡。


だが、魔力制御の技術は、Aと同等。


いや、それ以上か。


「・・・・面白い子なのよね、Bは」


私はグラスを揺らしながら呟く。


AもBもどちらも私から魔法の研鑽を受けていた。


言わば弟子。


特に、Bは、魔道具作りの才能にも優れていた。


確か、今、彼が研究していたのは。


“繊細な魔力制御を、誰でも可能にする魔道具”。


それが完成すれば、才能の差は埋まり、技術は広く共有されるはず。


――だが。


「まあ、地味よね」


努力は、目に見えない。


結果が出るまでは。


当然、周囲の令嬢たちは、美貌のAを支持した。


そして今。


Bの婚約者だった令嬢まで、Aを選んだ。


・・・・その結果が、これ。


ちらりと視線を向ける。


Bは――無表情だった。


何も言わず、ただその場に立っている。


そして。


泣き崩れたのは――Aの元婚約者の方だった。


「・・・・まあ、そうなるわよね」


私は軽く息をついた。


私は、派閥の長として、また、主催者としてこの場をどうにか宥めた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


翌日。


Aの屋敷。


「馬鹿者!!」


怒号が響く。


「貴様、とんでもないことをやらかした自覚は無いのか!?」


「ふぅー、ふぅー」


Aの親である伯爵家当主がAに怒鳴っていた。


Aは、その余りの剣幕に真っ青な顔をしていた。


その横には同じく夜会でAの隣にいた令嬢が震えている。


当主はやがて息を整え、思い出したように、


「貴様、以前、不老の魔法が完成したと言ったな!?」


Aはここぞとばかりに胸を張った。


「ええ、完成しました」


不老の魔法とは、美肌魔法の効果を永続的にしたもので、実際には美肌魔法の効果を極端に高め、年を取らないように見せるだけのものだ。


もちろん、繊細で高度な魔力制御を必要とし、誰にでもできるものではない。


「ならば証明しろ!」


そう言って令嬢の方を見る。


「この場でこの者にかけてみろ」


「できなければ――」


当主の声が低くなる。


「廃嫡だ」


「構いません」


Aはチャンスとばかりに笑った。


「僕は天才ですから」


「必ず成功します」


――そして。


魔法は、発動した。



結果は。


惨憺たるものだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「失敗したみたいですよ」


後日、護衛騎士が私に報告する。


「令嬢の肌はしわだらけに。どれだけ整えても、見た目は明らかに”老婆”という言葉が似合う容姿になったとか」


私は小さくため息をついた。

「あれほど忠告したのに」


「・・・・忠告していたんですか?」


「ええ」


グラスを傾けながら言う。


「筋は良かったのよ」


「でもね」


「途中で努力をやめたの」


「自分は天才だから、そんなの必要ないって」


少しだけ、目を細める。


「確かに肌をきめ細やかにする繊細な魔力制御は素晴らしかったけど」


「そんなこと言うようになった時点で、興味を失ったわ」


「最後にものを言うのは、才能じゃあないのよ」


「積み重ねた時間」


そして、思い出す。


「Bは違う」


「才能もあるけど、それ以上に積み重ねている」


「だから完成させたでしょうね、魔道具」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


後日、再び夜会。


会場の視線を集めたのは――


Bと、その新たな婚約者だった。


新たな婚約者は、同じ夜会で婚約破棄を受けた令嬢だった。


透き通るような肌。


自然な美しさ。


それは、魔法ではなく――


魔道具によって支えられた、安定した技術の結晶だった。


一方で。


Aは、夜会の隅に立っていた。


虚ろな目。


以前の輝きは、どこにもない。


そしてその夜会を最後に――


Aは廃嫡され、平民へと落とされた。


皺くちゃになった令嬢と結婚させられて。



「面白いものを見たわ」


私は静かに言った。


護衛騎士が肩をすくめる。


「典型的ですね」


「そうね」


私は頷く。


「・・・・どうしてああなったのかしら」


グラスを軽く掲げる。


「楽な道を選んだ者と」


「正しい道を選び続けた者の差」


そして、最後に一言だけ付け加えた。


「・・・・あの子は、Bは、興味深いものを作った」


Bの魔道具。


それは、繊細な魔力制御を誰にでも可能にするための一歩だった。


まだ起動には膨大な魔力を必要とするため、一般化には至らない。


それでも。


「いずれ変えるでしょうね」


私は微笑む。


「この世界の“常識”を」


夜会の喧騒の中。


新しい時代の気配が、静かに生まれていた。


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