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歴史的後記


 後世の歴史家たちは、この時代の剣術について、おおむね次のように記している。


 「剣術は、戦闘技能として後の歴史に目立った足跡を残さなかった」と。


 これは概ね正確な記述である。


――


 魔術は、この時代を境に急速に発展した。


 幻影術による魔法陣の空間投影という技術革命は、戦闘における距離の概念を根本から変えた。続いて感知魔術が実用化された。気配を、熱を、動きを、空間ごと捉える術が生まれた。やがてそれは索敵に転用され、広域感知として実用化された。戦場における「見えない」という優位は、ほぼ消滅した。


 剣術教授の制度が縮小されたのは、こうした技術的な必然の流れの中にあった。剣術師範の称号は存続したが、それは制度上の名残であり、実戦における需要ではなかった。


 武装した人間の標準的な装備からも、長剣は外れた。代わりに短剣が残った。懐に収まり、至近距離に対応できる。サブウェポンとして、以後も装備され続けた。長剣のための訓練体系ではなく、呪具と短剣を組み合わせた戦闘様式が主流となった。


――


 ただし、歴史家が「目立った足跡を残さなかった」と書くとき、それは戦果の記録がないという意味である。


 別の記録は残っている。


 後の時代に発見されたある役人の立会記録には、簡潔な一文がある。登録術師と一般人による試合の記録であり、立会人として「薄刃の先生」の名が記されている。試合の結果欄には「術師の敗退」とある。


 備考欄は空白である。


 何が起きたか、記録には残っていない。しかし記録された事実として、その日、剣が術に勝った。


――


 薄刃と呼ばれた剣士については、それ以上の公的な記録は残っていない。


 剣術師範の称号は末尾まで保持されたと記録されているが、弟子の受け入れは制度の縮小とともに終わった。ただし同時期、ある若い剣士の名が諸地を遍歴したという断片的な記録がいくつかの地方文書に現れる。その剣士が誰の弟子であったか、記録は沈黙している。


 名前を忘れた花が、毎年咲いていたという記録も、当然ない。


――


 剣術は戦闘技能として時代の主流にならなかった。


 しかしそれは、剣を磨いた者たちが何も残さなかった、ということではない。


 残ったものは記録の外にある。師から弟子へ、その弟子からまた次へ。どこへ行っても剣がある、という言葉とともに。


 歴史はその種の継承を、書き留めない。


――


 以上が、後世において知られる範囲の記録である。


 残りは、知られていない。


 知られていないことが、この世には沢山ある。


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