第49話 その夜
帰ってきた家は、変わっていなかった。
◇
家に戻った。道場があった。庭があった。縁側があった。
変わっていなかった。しかし今日のアルトには、少し違う見え方をした。
同じ場所が、少し広く見えた。
◇
三人で夕飯を食べた。ソプラノも帰りについてきた。
芋が出た。秋の食卓だった。
「うまいですか」
「はい」
「師匠もうまいですか」
「うまい」
三人で少し黙って食べた。
◇
「師匠、今日俺はどこまで行けましたか」
「どう思う」
「……陣の光より速かったかどうか、まだわかりません」
「そうだな」
「速かったですか」
「さあ」
「さあって」
「速かったかどうかより、届いたかどうかだ」
「届きましたか」
「届いた」
アルトは芋を食べた。
「ソプラノが見えたと言ってくれました」
「そうか」
「師匠も見えたと言ってくれました」
「そうだな」
「……見てほしい、がかなったんですね」
「そうだな」
◇
ソプラノが帰る前に言った。
「また来ますか」
「来ます」
「いつですか」
「さあ」
「さあって」
「来たいときに来ます」
「……そうですか」
少しの間があった。
「あなたは、どこへ行きますか」
「まだわかりません」
「わかったら教えてください」
「……はい」
ソプラノが帰った。
◇
食器を片付けながらトネリアは考えていた。
今宵の内には、言わなければならない。アルトの剣が本物になった日に言う。
それが正しい順序だ。
今日がその日だった。




