第47話 魔術殺し(後半)
島が静かだった。風だけが動いていた。
◇
あたりはもう暗い。
ソプラノは術を止めていた。
術は投射型だった。相手を捉えなければ当てられない。アルトを捉えられなかった。
アルトがどこかにいた。しかし足音がしなかった。どこに向かうかわからなかった。
風が動いた。
鈴の音が聞こえた。ちりん。
右から。
ソプラノが右に陣を投影した。光の紋様が右側の地面に広がった。
何もいなかった。
◇
また鈴の音が聞こえた。ちりん。
左から。
ソプラノが左に投影した。
何もいなかった。
ソプラノの頬に汗が伝う。
(影すら追えていない—―)
◇
また鈴の音が聞こえた。ちりん。
今度は真後ろから。
ソプラノが振り返った。
180度、全開で後方に陣を展開した。光の紋様が島の岩場に広がった。岩が白く固まった。
風が吹いた。
何もいなかった。
◇
音がした。
後ろではなかった。
本来の正面から、布ずれの音がした。風の音に混じった、ごく小さな音だった。
ちょうど、月影があわく光を落とした。
振り返る前に、剣先がソプラノの喉元に止まった。
一寸手前で、止まっていた。
静かだった。
「……」
ソプラノが動かなかった。
剣先が喉元にあった。アルトが後ろに立っていた。
風が吹いた。
「……負けました」
ソプラノが言って、アルトが剣を引いた。
◇
少しの間があった。
ソプラノがアルトを見た。
「見えました」
「何がですか」
「あなたの剣が。ちゃんと」
アルトが黙った。
それだけだった。それだけで十分だった。
怒りが、今ここで完全に行き先を変えた。憎しみではなかった。見てもらえた。
◇
役人の筆の音が、静かな島に聞こえた。
記録されていた。それが奇妙ではなくなっていた。
記録される。それでいい。記録されても、この瞬間は変わらない。
◇
その夜、トネリアは岩のそばに立ったまま、動かなかった。
鈴を囮にした。
こなたは鈴を「鳴らさない」ために付けた。アルトは鈴を「鳴らして囮にする」ために使った。同じ鈴で、逆のことをした。
師が言っていた。「剣は道具ではなく意志だ」と。
今日のことが、その意味だったかもしれない。
見えた。こなたにも見えた。アルトの剣が、今日ここで本物になった。
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