第45話 夕日
ソプラノが島の反対側で立っていた。だいぶ待ったように見えた。
◇
アルトが平地に出た。向こうにソプラノがいた。
ソプラノの表情が、来るなりの表情ではなかった。待って、少し固くなっていた。
「遅かったですね」
「そうですか」
「……わざとですか」
アルトは答えなかった。
◇
役人が制度上の確認事項を読み上げた。風がその声を少し曲げた。
「登録術師ソプラノ、対、一般人アルト。立会人トネリア——」
一般人アルト、という言葉が、風の中に混じって消えた。
弟子ではなかった。一般人として記録される。
奇妙だった。しかし悪くなかった。剣は剣だ。どう記録されても、剣は変わらない。
◇
トネリアが岩のそばに立った。立会人として、端に立った。
アルトから見て、師匠が端にいた。師匠の目を見た。目が合った。
何も言わなかった。
それで十分だった。
◇
アルトはもう一度、太陽の位置を確かめた。
西に傾いていた。低くなっていた。今だった。
「準備はいいですか」と役人が言った。
アルトは動いた。
返事をしなかった。ソプラノの反対側に回り込んだ。
「何をしていますか」
答えなかった。立ち止まった。
太陽を背にして立った。
光が、その方向から来ていた。ソプラノが目を細めた。
「……なるほど」
低い声だった。怒った声ではなかった。
◇
剣を抜いた。鈴が一度鳴った。力が入っていた。
アルトは深呼吸した。
もう一度構えた。鈴が鳴らなかった。
これでいい。
◇
その夜、トネリアは岩のそばに立っていた。
アルトが太陽を背にして立った。
こなたには教えていない。読むことだ、とこなたは言った。しかしこなたが言ったのは相手のことだった。
アルトは、場のすべてを読んでいた。




