第44話 島へ
舟に乗ったのは初めてだった。
◇
朝早く出た。空が白んでいた。街を抜けて海岸に出た。
舟があった。小さい渡し船だった。トネリアと役人がすでにそこにいた。
ソプラノの姿はなかった。
「先に行っています」とトネリアが言った。
「先にですか」
「そうだ」
「……そうですか」
舟が出た。
◇
海が動いていた。陸が遠くなった。
アルトは剣を膝に置いて、海を見た。
揺れていた。足元が一定ではなかった。
立ってみた。揺れる舟の上で、立った。少し歩いた。鈴が鳴らなかった。
少し速く歩いた。鳴らなかった。
誰も見ていなかった。それで十分だった。
◇
島が見えてきた。
岩が多かった。木が少しあった。砂浜ではなかった。平らな石の地面が沖まで続いていた。
風があった。海の風だった。一定ではなかった。止まる瞬間があった。
アルトは太陽の位置を確かめた。
西に傾いていた。まだ高かった。あと一刻か二刻で低くなる。
「あそこです」と役人が言った。
◇
上陸した。
石畳のような平地が広がっていた。端は岩場になっていた。海が見えた。
遮蔽物はほとんどなかった。岩が数個あるだけだった。
地面を踏んだ。固かった。平らだった。足場は悪くなかった。
「ソプラノは」
「島の反対側で待っています」と役人が言った。
アルトはもう一度、太陽の位置を確かめた。西に傾いていた。
計算通りだった。
◇
その夜、トネリアは島の端に立っていた。
アルトが舟の上で歩いていた。鈴が鳴らなかった。
こなたには教えていない。自分でやっていた。
島の石の地面を見た。平らだった。固かった。
明日ではなく今日だった。今日がその日だった。




