第41話 俺は姉と戦うことにした
昼前に、門を叩く音がした。
トネリアが「わたくし」で応対しかけて、止まった。今回は別の声だった。
「登録術師ソプラノ様はこちらにおいでですか」
ソプラノが立った。今日はたまたま来ていた。
門の前で応対した。声が丁寧になった。アルトはまた廊下から聞いた。
「今期の活動記録の確認に参りました」
「承知しました」
「術の使用実績は」
「こちらに記録しています」
「今後の使用予定は」
「一件、予定があります」
「内容は」
「対人・一対一です。立会人を立てます」
「日程は」
「秋の初めを予定しています」
「承知しました。立会人の名前を後日届けていただければ」
「はい」
役人が帰った。
◇
廊下で聞きながら、アルトは少し奇妙な感覚があった。
今まで、これは自分とソプラノの間のことだと思っていた。しかし役人の声を通して聞くと、別のことのように聞こえた。記録になっていた。
秋の初めに行われる、対人・一対一の術の使用。
そういうこととして、誰かの帳面に書かれる。
悪い気持ちではなかった。しかし奇妙だった。自分が感じていたことと、記録されることの間に、少しだけ隙間があった。
◇
縁側に三人で座った。
「立会人とは何ですか」
「登録術師が一般人と術を使う場合、制度上、立会人が必要なんです」
「俺は一般人ですか」
「剣術教授の制度上は……今期で終わります。秋には一般人です」
アルトはしばらく考えた。
「立会人は誰がなりますか」
「……まだ決めていません」
「師匠がなれますか」
トネリアが一拍置いた。
「こなたでいい」
それだけだった。
「役人も来ますか」
「記録のために、はい」
「じゃあ二人来るんですね」
アルトは少しの間、そのことを考えた。役人が来る。記録される。
しかしそれよりも、師匠が来る。
「……見てもらいたいので、いいです」
◇
その夜、トネリアは文机の前に座った。
役人が立会人として来る。記録のために。
こなたも立会人としてゆく。それは記録のためではない。
二つの見届けが、同じ場所に集まる。




