第39話 姉が俺の剣を見た
翌週、ソプラノが来るなり「今日は稽古を見せてください」と言った。
縁側に座る前に言った。
「今日は見ていていいですか、ではなく」
「はい。見せてほしいです」
トネリアが「いい」と言った。
アルトが構えた。今日はいつもより緊張した。鈴が一度鳴った。自分でわかった。
構え直した。
◇
稽古が始まった。トネリアが打ち込こんでくる。捌いた。転んだ。起きた。
今日は転んでも起き上がりが速かった。自分では気づいていなかったが、ソプラノが後で言った。
「起き上がりが速くなりましたね」
「そうですか」
「前は一拍ありました。今日はなかった」
「……気づいていませんでした」
相真向になった場面があった。
正面から両者が踏み込んだ。交わらなかった。アルトが右に体を開いた。トネリアが左に流れた。すり抜けた。
鈴が鳴らなかった。
「……また鳴らなかった」とソプラノが言った。
「そうです」
「力が入っていないのに剣が動く」
「そうです」
「怖くないですか」とソプラノが聞いた。
「何がですか」
「当たらないことが」
アルトが少しの間考えた。
「当てようとしていないので、怖くないです」
ソプラノが黙った。
◇
稽古が終わって、縁側に座った。
ソプラノの目が鞘の鈴に止まった。
「その鈴は」
「師匠と同じ作りです。鍔に付いています」
「師匠に付けてもらったんですか」
「師匠が連れて行ってくれました。選んだのは俺です」
「自分で」
「そうです」
ソプラノがしばらく鈴を見た。
黙って見た。
アルトが黙って待った。そうして、口を開く。
「次は、術を見せてくれませんか」
「先日、見せました」
アルトはソプラノの話を遮った。
「今度は、仕合の場で……というのは駄目ですか」
ソプラノは息を吞んだ。アルトの目を見た。
「——そうですか。少し考えさせてください」
「もちろん」
◇
その夜、トネリアは道場に入った。
アルトの剣を、ソプラノが今日初めてちゃんと見た。見た、という感覚がした。こなたは少し離れていたが、その視線の質は遠くから見てもわかった。
師がこなたを見るとき、同じ目をしていた。
まだ「見てもらえた」ではないかもしれない。しかしその前の一歩は踏んだ。
剣を一度、振った。鈴は鳴らない。




