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第38話 俺は姉と話した
その週のソプラノの来訪で、アルトは自分から話した。
◇
稽古の後に、三人で縁側に座った。
アルトが「手紙が来ました、母から」と言った。
ソプラノが静止した。
「内容を話していいですか」
「……はい」
「一緒に暮らしたかった、と書いていました。姉さんと、もう一度」
ソプラノが黙った。
「姉さんは、知っていましたか」
「……知りませんでした」
「なぜ申し込んだか、知りませんでした」
「今は」
「今も、わかりません」
「俺も、わかりません」
間があった。
「でも——」
アルトが続けた。
「俺、姉さんに怒っていました。ずっと怒っていました。でも今は違います」
「何が違うんですか」
「怒りの向かう先が、変わりました」
「……どこに向かっていますか」
「見てほしい、に変わりました」
ソプラノが黙った。長い間があった。
「見ます、と言いました」
「言いました」
「それは本当です」
「わかっています」
「……いつですか」とアルトが聞いた。
ソプラノがすぐに答えなかった。
しかし首を振らなかった。
◇
その夜、トネリアは庭を見た。
いつですか、という問いが出た。約束に形を与えようとしている。
ソプラノは首を振らなかった。答えを持っていない顔ではなかった。
秋が来る前に、形が決まる。




