表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/55

第35話 姉が母について語った


 翌週もソプラノが来た。今日はトネリアがいた。


 ◇


 稽古の後、三人で縁側に座った。


 冷やした果物が出た。


 アルトが口を開いた。


「姉さん、先週の続きを聞いていいですか」


 ソプラノが静止した。一拍置いて、「はい」と言った。


「腕を凝固させたのはなぜですか」


 ソプラノがトネリアを見た。トネリアは庭を見ていた。


「母が申し込んできたとき、断れませんでした」


「なぜですか」


「断ったら、母はもっと強い相手に申し込む。そうわかっていた」


「……それで」


「自分が受ければ、殺さずに済む。腕だけ凝固させれば、死なない。そう思いました」


 ◇


「腕が戻らなかったのはなぜですか」


 間があった。


「……強く使いすぎました」


「なぜ強くなったんですか」


 また間があった。今度は少し長かった。


「制御が乱れました」


「なぜですか」


「……相手が母だったからです」


 ソプラノが、初めて目を伏せた。


「術は感情に引っ張られます。陣を投影するとき、気持ちが揺れていると、出力が変わる。わかっていました。でも、母が目の前にいると、揺れました」


「……そうですか」


「術師として、失格でした。いつもなら時間で解けます。あの日は解けなかった」


 アルトは果物に手を伸ばした。食べた。甘かった。味が遠かった。


「姉さん、謝らないんですか」


「……謝っても、腕は戻りません」


「そうですね」


「謝ってほしいですか」


 アルトは少しの間考えた。


「……わかりません。でも今日は聞けてよかったです」


 ソプラノが黙った。


 今日は誰もうまいと言わなかった。しかしみんな食べた。


 ◇


 その夜、トネリアは縁側に出た。


 アルトの怒りの質が、今日また変わった。先日は怒りの向かう先が変わった。今日は質が変わった。


 憎めない。しかし許せるかどうかもわからない。その両方が同時にあるときの顔を、アルトが初めてしていた。


 笛を持った。今日のことを考えながら、しばらく吹いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ