第13話 師匠が街に出た
街では、師匠のことを知っている人間がいた。
◇
二十五日目。買い出しに同行した。
トネリアが「来るか」と言った。珍しかった。即座に答えた。
道は雪が残っていた。山を少し下ると、小さな街があった。市が立っていた。人が多かった。
トネリアはいつもの装束だった。亜麻色の髪を結わえていた。袖が長かった。人の間を歩くと、少し人目を引いた。
「師匠、街に来ることあるんですか」
「たまにある」
「一人でですか」
「そうだ」
「俺を連れてきたのはなぜですか」
「さあ」
さあ、で終わった。
◇
八百屋のような店の前に来た。
店の男が顔を上げた。トネリアを見た。
「先生」
男は頭を下げた。
「こちらが弟子さんですか」
「そうだ」
「よく似てますな」
またその言葉だった。
「何がですか」
アルトは今回は聞いた。
男はトネリアを見た。トネリアは芋を一つ手に取って、重さを確かめていた。
「……先生のお師匠さまに」
芋を持ったまま、トネリアが止まった。一瞬だけ止まった。それからまた芋の重さを確かめた。
「これをくれ」
「はい」
それだけで終わった。
◇
帰り道、アルトは聞いた。
「師匠の師匠に似てるんですか、俺」
「そうらしい」
「師匠はそう思いますか」
「思う」
「どのへんがですか」
「構えと、重心の取り方だ」
「師匠の師匠は、どんな人でしたか」
「強い人だった」
「どのくらい」
「こなたより強かった」
「今もですか」
「今はいない」
今はいない、という言い方が少し違った。
「亡くなられたんですか」
「そうだ」
「いつですか」
「随分前だ」
それ以上は言わなかった。アルトも聞かなかった。
雪が残った道を、二人で歩いた。荷物が重かった。芋が多かった。
「また芋ですか」
「芋は良いものだ」
「毎日ですよ」
「そうだな」
歩きながら、アルトは自分の足を見た。雪道を、今日は一度も転ばなかった。気づいたのは帰り道だった。
◇
その夜、トネリアは文机の前に座った。
筆は持たなかった。
師に似ている、と言われるたびに止まる。止まるべきではないとわかっている。それでも止まる。
アルトは帰り道、一度も転ばなかった。言わなかった。気づいていなかったかもしれない。
気づいていないうちに変わっていく。それが稽古だとこなたは思っている。師は何も言わなかった。翌日から内容が変わった。それだけだった。
こなたもそうする。




