仲間
二人が敬礼で返すのを見届けるなり、岩澄は大股で倉庫を出ていってしまった。風音は一瞬追いかけようとしてから、思いとどまる。
「玄谷!」
風音は幾起に歩み寄り、耳元でそっと囁いた。
「はあ?なんだって、そんな――」
仕方なく事情を話すと、始めは訝しがっていた幾起も遠慮なく笑いだした。
「ひっでぇ、果奈にやらせっぱなしにするからそうなるんだ。」
「仕方ないだろう、私がやろうとすると何でもすぐに取り上げられてしまうんだ。」
気色ばんだ風音を片手で制して、幾起は呼吸を整えてから、
「簡単さ。石を左に握って、カネを右に持つ。で、手前から奥に向かってカネで石を削るように打ちつける。火の粉が飛ぶから、それを綿にかけてついた火に息を吹き込む。」
「分かった。左に持った石の角にカネを打ち付け、綿に火の子をふりかける。いいか?」
「そうそう。それから、付け木に火を移して、薪に持っていくんだ。薪の上にも、ちり紙とかを乗せてさ。」
風音は目をつむって額に手を当て、何度か小声で繰り返した。一通りの確認が終わると顔を上げ、幾起きに向き直る。
「助かった。恩に着る。」
幾起の腹の底から、笑いが寄せ返した。
「どういたしまして――上手くやれよ。」
「お前に言われるほどには困ってない。」
憮然とする風音の肩を叩いて、幾起は風音を送り出す。光の帯を背負った幾起は、白い歯を見せて悪戯っぽく笑っていた。確かめて、風音は再び歩き出す。
「不知火!」
立ち止まった風音に、幾起は高らかに宣言した。
「覚えておけよ!お前を墜とせるのは俺だけだ!」
「くどい!」
よくもこんな恥ずかしい文句を臆面もなく言えるものだ。聞き飽きた台詞に方をすくめて見せ、勝手口のへりに手をかけたその時、淀んだ風を割れ鐘の声が吹き飛ばした。
「俺を墜とせるのはお前だけだ!いいな!」
弾かれたように振り返ると、幾起の人影がはっきりと見えた。積み重なった薄闇を貫き、炯々とした視線がぶつかりあう。気が付くより先に、風音はありったけの声で叫んでいた。
「大口を叩いたからには、滅多な敵に墜とされるなよ!」
目がくらむほど強い光が、鼓動に乗って埃っぽい暗がりを追い払う。確かな手ごたえを握り締めた拳を、二人は負けじと高く掲げた。
役目を終えて戻ってくる竜たちと入れ替わりで、二匹の竜が基地の裏手からそっと飛び立つ。涼しさを編み込んだ力強い風に乗って、二つの影が大空に吸い込まれていった。




