流入
岩澄は一番手前の革帯を外すと、白い幌を無造作に引っ張った。薄闇を満たす張りつめた静けさに柔らかな衣擦れの音が染みわたり、外気に触れた滑らかな翼はかすかな光を浴びて淀みの底で曇りのない輝きを放つ。透き通った冷たい色合いの果てしない深みから風音の白い手が浮かび上がり、私に触れた。
指先から明るい波が伝わり、一瞬を突き抜け、目の前に弾けた光に目がくらんだ。気がつくと、私は広々とした雪原のただなかにいる。寝静まった白い地平には、もはや風音の姿さえなく、底のない澄んだ空と染み一つない雪原が安らかな静寂を塗り分けている。見渡す限りの白と青。凍てつく空に太陽は見当たらず、輝く大地に落とされるはずの影もない。どう考えてもお迎えが来たとしか思えない光景だが、不思議と恐れは全く感じられなかった。はるか昔から見知っているような、どこかで待ち続けていたような懐かしさが、ここにはある。だから、あれは――迎えにきたのだ。
温かい涙が頬を伝い、真っ白な雪に吸い込まれたその時、深い青の奥底で何かがきらりと光った。一つだけではない。真昼の空に散りばめられた星々は次第に輝きを増し、世界を満たしてゆく……
風音がそっと手を離すと、岩澄は黙って様子をうかがい、ゆっくりと頷くのを確かめてから革帯を締め直した。
「これで一応は心配ないだろう。本隊が返ってくる前にとっとと運んじまおう――最後に、何かあるか?」
振り向いた岩澄に、幾起が答える。
「俺からは、特に何も。岩澄さん、お気をつけて。不知火も、元気でな。」
声は聞こえているのに、言葉は彼方を滑ってゆく。風音が足場を探しているうちに、岩澄が幾起に応えてしまった。
「ああ、玄谷も頑張れよ。それじゃあ、不知火、竜を取りに行こう。玄谷は俺達が戻ってきたら、倉庫の扉を開けてくれ。」




