屍
「それか。」
幾起が頷くのを確かめると、風音は倉庫を見渡した。砂のこびりついた小さな天窓から射し込む光は屋内をくまなく照らすには貧しすぎ、四隅に寄せられた備品は勿論、幌に包まれた「戦利品」も、ごく一部を除いて暗がりに埋もれてしまっている。風音が薄闇の向こう側に目を凝らすと、その見えない部分から物言わぬ視線が返ってきた。冷たい汗が背中を伝い、すくんだ足が震えだす。
「驚いたろ。敵を捕獲したんだ。しかも殆ど無傷なんだぜ。」
「迂闊にしゃべんなって。機密なんだろ、一応。」
戸口に岩澄が立っていた。
「岩澄さんなら大丈夫ですよ。それに、ずっと隠しておくようなものでもないんでしょ?」
「バカ、理由のわからない機密ほど怖いもんはね―んだ。」
岩澄の口から真っ当な台詞を初めて聞いた風音は目を丸くしたが、より重要なのはその機密になった理由だった。不留人の伝承以上の何かを、陀求社は確実に掴んでいる。
「……軽率でした。」
頭を掻く幾起の肩を叩いてから、岩澄は明真名に近づいた。
「それにしても、こいつはちょっとした大物だ。……玄谷、これ、死んでるよな?」
「ええ、部隊長も確認したので、確かです。」
洛澄が増援に駆けつけた時点での戦局は厳しく、とうとうこの開真名が富良樹に侵入してしまい、すんでのところで幾起が取り押さえたのだという。
「それで、『素武』を使ったのか。」
幾起は候補生時代から『素武』を好んで使っていた。掴んだ相手に電流を流しこむだけの単純な破羅輪呪だが、威力は申し分ない。
「なんだ、けがの功名じゃないか。」
風音は腰に手を当て、わざと大きくため息をついてみせた。幾起も眉間に皺を寄せ、
「いいじゃないか、俺が逃がしたわけじゃなし。」
と応戦する。見かねた岩澄は二人の間に割って入り、仕事を進展させるための唯一の提案を行った。
「それじゃ、最後にもう一度だけ拝んで、とっとと運び出そうや。」




