目標
穏やかな風に乗り、勢いよく滑りだす。
『おかしな話ですね。玄谷は私と同期ですよ。』
『皆が不知火みたいに目標を持って入ってくるわけじゃない。玄谷はまさにそうだった。名家の次男坊だったあいつは、それはひどい悪童だったらしくてな。厄介払いで士官学校に叩きこまれたんだと。』
幾起の不良学生ぶりは、風音も記憶している。同期はおろか、校内に知れ渡っていたくらいだ。
『それが、急に真面目になった時には驚きましたよ。』
『だから、俺も玄谷が頭を下げに来た時は、何が何だか分からなかったね。』
どうしても勝ちたい奴がいる、幾起は訝しがる岩澄に告白した。
『なるほど。そこで私が出てくると』
『実家に戻る度にお前を引き合いに出されて、相当頭に来てたらしい。弱みを握るために後を付けようとしたらしいんだが……』
次第に強まる風は空の上に砂塵を塗り重ね、地平線を覆い隠してしまった。順当に進んでいた岩澄の話は予想外の方向に進みつつある。
『あいつの企みはあっという間に座礁した。肝心のお前が演習場から出て来なかったんだ。』
砂嵐の中を、二匹は器用にバランスを取りながら飛んでいた。土の富良樹はそう遠くないはずだが、確認のしようがない。それで、痺れを切らして覗きに行った玄谷は――岩澄はゆっくり振りかえった。
『見ちまったんだな。何でも涼しそうにこなしてるお前がさ、まるで何かに追われてるみたいだったんだと。』
日照りが力を取り戻すにつれ、目の前に大きな影が浮かび上がってきた。
『……情けないところを見られたものです。』
『でも、それがあいつの目標になったんだぜ。』
今の俺には羨む資格すらないんだ、歯を食いしばる玄谷を、岩澄は無碍にはできなかった。
『お前みたいに、なりたい……というよりは、やらなきゃいけないと思ったんだろう。』
砂嵐が落ち着くに従って、影の輪郭が研ぎ澄まされてゆく。空に突き刺さる直線的な姿は、見慣れた故郷によく似ていた。




