砂漠
『岩澄……さん。』
砂漠に差し掛かってから、かなりの時間が過ぎていた。地平線から湧きだす砂の海は、一向に尽きる気配がない。
『――お前な、俺を馬鹿にするのも大概にしろよ。実習で二、三回来ただけの学生さんとは違って、この辺りは何度も飛んでんだ。ほれ、復習だ、あっちの岩山、なんていうか知ってっか?』
鋭くとがった三棟の岩山は「三つの破鷲螺」と呼ばれていた。土の富良樹が近づいた証拠でもある。
『「三つの破鷲螺」が見えたということは、後一息で土の富良樹ですね。岩澄さんの判断はおおむね的確ですよ。」
『うへぇ。』
『伺いたいのは、先ほど申された――玄谷が、私について何か申し上げたそうですね。』
岩澄は一瞬考えて、
『悪口なんて一つもないよ。褒めてばかりで、こっちが恥ずかしくなるくらいだ。』
と、的外れな返事をよこした。
『違います。地下牢で、「お前のおかげだ」と言われてから、何を指していたのか気になっていて……』
地平線から赤茶けた岩山が姿を見せ、砂漠の輪郭が現れた。
『そっちか。お前やっぱり……本人からは聞かされないな、普通は。』
『やっぱりとは?』
武骨な岩のテーブルが近づく。大河が掘り出した渓谷の一つ一つに、鮮やかな横縞が刻み込まれていた。
『いや、まあ、なんだ。それだけ話しづらいってことだよ。』
岩澄の曖昧な口調に、風音は質問を取り下げてみる。
『些細なことなら、構いません。つかぬことをお聞きしました。』
『いや、話すぞ。誤解させたままじゃ悪いからな。』
慌てる岩澄に風音は念を押した。
『深刻な問題ですか。』
『そうだ。いいか、誰にも言うなよ。』
『分かりました。』
雲ひとつない乾ききった空が、静かに動き始める。
『よし……玄谷はお前に借りがある。ここまでは話したな。』
『心して聞くので、早く話してください。』
『話す、話すぞ……信じないかもしれないけどな、あいつはお前に憧れて志を立てたのさ。』




