奇縁
「お知り合いが?」
「玄谷の応援にな。一年くらいだけど、面倒見てた時期があって。」
風音は弾かれたように起き上がった。振り切ったはずの懐かしい名が、風音の方を再び掴む。
「……道理で、私は最初から恨みを買っていたのか。」
壁に寄りかかってよどんだ空気を吐き出すと、いくらか方の力が抜けたか、息をするのが楽になる。
「恨んじゃいないが、まあ、ショッキングだったからな。よく覚えてるよ。おかげで反応できた。」
岩澄の声は、心なしか震えていた。薄汚れたシーツをつ握りしめ、小さくつぶやく。
「あんな……」
小枝の折れる音とともに、あかりが薄闇に締めつけられる。食い込んだ指先から伝ってくるぐったりとした肉の重みに、風音は反射的に手を離し、皺の寄ったシーツから飛びのいた。
「あんなことができる奴は他にはいねーよ。あいつがそう言った。俺も、俺には真似できないと思ってる。それができる奴だから、あいつはお前に、お前のおかげなんだって、 あいつが言ってたんだぜ?」
閉じ込められた地下牢の空気が、岩澄の声に震えた。
「恨みを買ってる?っ誰もんなみみっちいこと言ったりしねーよ!玄谷のやつ、見舞いに行った俺になんて言ったと思う?」
「わかりませんよ、そんな……」
風音は口籠ったまま壁に寄りかかった。湿った岩に触れた右手に、燭台の放つ穏やかな熱が重なる。
「お前のこと、よろしく頼むって、見かけによらず、気の小さい奴だからって。」
鉄格子の間から射し込む光の帯が、やけにまぶしい。かすかな風の流れにたゆたいながら、灯りは静かに燃え続けている。風音は湿った空気をゆっくりと吸い込んだ。




