禁錮
着任早々私闘騒ぎで禁固とあっては、父にも兄にも顔向けできない。進退は窮まり、独房は世辞にも快適とは言い難く、隣の房で怒鳴っているのは、鼻持ちならない同僚だ。あの煩い男のせいで……あの煩い男が、一向に答える気配さえ見せない。風音は顔を上げ、冷たい壁を凝視した。
「お前、ホント強えーのな、あいつの言った通りだわ。」
唐突な賛辞に風音はますます目を尖らせたが、石造りの壁を貫くには至らない。見切りをつけて足を投げ出し、硬い寝台に寝転がる。
「まだまだです。勝てる勝負を逃すようでは。」
外向きに寝返りを打ち、自分の影に顔をうずめた。暗がりが、燭台に合わせて呼吸している。
「勝てる勝負、ね……癪に障る奴だけど、仕方ねぇ、認めてやるよ」
幾分棘のある答えのついでに岩澄はわざとらしく鼻を鳴らした。
「では―」
風音が俄かに跳ね起きると、寝台を下げる鎖は錆ついた悲鳴を上げた。
「それはナシだ。俺だって去年は雑用をこなしてたんだぜ。」
何も返せないまま、風音は短く唸る。
「それは、……分かりました。ですが―」
「まだ何かあるのか?」
力ないため息が、壁の向こうから伝わってくる。
「最後の宙返りが……見破られるとは思ってもみませんでした。」
影を睨む風音の背後で、俄かに哄笑が弾ける。振り返ろうとした途端に寝台から身が飛び出し、風音は右手をついて身体を支えた。
「なんで機嫌が悪いかと思ったら、そっちか……あれはな、一回見てんだよ。奥の手のつもりだったんだろうが。」
その一回とは、卒業試験のことである。人前で使ってしまったのは、後にも先にも一きりだった。




