表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
telracStream  作者: 筬群万旗
夢の底に届く光
67/77

反応

 苦し紛れに切り返し、仰向けのまま螺旋を描いて急降下。きしんだ翼が悲鳴を上げ、かき乱された横風が怒号を上げる。複雑な軌道に絡みつく殺気が、着実に風音の首を締め上げてゆく。突き立てられた鋭い射線が背中を撫でる冷たさに、身をよじって軌道をねじ伏せると、横目に氷のきらめきが奔った。続けざまに降り注ぐ『燻麻クスマ』を風音は紙一重で躱し続けたが、落ちて行く先は落とし穴の底だ。小回りの利かない亜那が逃げ切る方法は、距離を引き離すことくらいのものだが、破羅輪呪をかわしながらでは無理に近い。雲の中まで逃げ込めるかどうかさえも怪しいものだった。

 二匹の距離が徐々に煮詰まり、いよいよ逃げ場がなくなったそのとき、亜那の翼が朝日に焦げ付く冷たい空に尾を引いた。右に左に体を捻ると、まばゆい帯は大きく翻り、たなびく熱に暴れる風が爛れ出す。岩澄は器用に『燻麻』をよけるが、わずかな動きに途切れた鎖縛が亜那を再び捉えることはなかった。殺した速度を生かして小さく回った亜那の身体を、通灯が勢いよく天頂に押し上げる。反応が遅れた岩澄は、素早い切り返しで追いすがる。試験と同じ展開を、風音は記憶をなぞるようにして後ろ宙返りでもぎ取った。

 岩澄の視界に亜那が飛び込んできたとき、亜那の眼光は正面に獲物をとらえていた。蜜蝋を溶かしこんだ一瞬が、折り重なった戦慄の間をじりじりと這ってゆく。頭を動かさずに背筋を巻き取るようにして残りの半回転を消化してゆく亜那と、亜那の爪に吸い込まれるようにして近づいてくる岩澄の竜。確かな手ごたえは、しかし、岩澄のとった不可解な挙動に打ち砕かれた。岩澄の竜が、首を丸めている――

 とっさに飛びのいた風音の反応は、全くの正解だった。熱い傷みが蛇腹に走ると同時に、岩澄の竜がとった挙動の意味を理解する。鱗のない腹の皮を浅く裂いたのは、振り挙げられた竜の尾だ。亜那が掴みかかる寸前に、岩澄の竜は前方に半回転していた。不敵に光る岩澄の竜の眼に、逆光に浮かび上がった亜那の瞳が映りこむ。息が届くほどの至近距離だ。お互い姿勢を正すことさえできず、落下しながら正面から撃ちあう羽目になる。二匹の間に張りつめた導火線が、音も立てずに弾け飛んだ、その時、

『やめんか!』

 凍える空をふるわせたのは、遅れて駆けつけた隊長の大音声だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ