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telracStream  作者: 筬群万旗
夢の底に届く光
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風向き

 いよいよ追い詰められた岩澄は、大きく身をよじって風の隙間に滑り落ちた。先の突風程ではないが、温まってきた陸風は、橙色の雲を力強く押し流している。煽られないように慎重に舵をきって、風音は岩澄を追う。『崇辣』がかわされたせいで際どい戦いになりかけたが、後は落ち着いてとどめをさすだけだった。

 無理をせずに岩澄を追いまわしながら、風音はじっくりと隙を窺った。相手が向きを変える度、『椏殻』を二発ずつ打ち込む。相手も粘るが、当たるのも時間の問題だった。右に左に、上に下に、弧を描いて絡み合う軌跡が、終わった勝負を飾り付ける。他の隊員が相手ならば華を持たせる所かもしれないが、この愚か者には付き合ってやる暇もない。風音は旋回半径を抑えて、一気に距離を詰め出した。

 間隔が狭まれば、破羅輪呪(パラージュ)が届くまでの時間も縮まり、当然当たりやすくなる。十分引き付けて打ち込んだ『椏殻』が相手をかすめる。手ごたえを感じて続けざまに攻撃するが、二発目もなぜか外れてしまう。気を取り直して放った三発目も、当たりそうで当たらない。距離は詰まっている。十二分に追い詰めている。いつ当たってもおかしくないどころか、当たらないはずがない『椏殻』が、立て続けに外れる。黄色い空に浮かんだ影が、フォークの先をかすめて踊っている。次第に強まる風の隙間に、不協和音が充満していく。間近に捉えたはずの敵が、視界の外にふらふらと逃げ出す。

 とっくに終わったはずの持久戦は、いつの間にか泥沼に陥っていた。解け始めたより糸を辿って追いすがるほど、旋回が大回りになって反応するタイミングが遅れてゆく。旋回中に時折翼が軽くなるのは、失速する前兆だった。いつの間にか雲海が目前に迫り、膨れ上がった焦りがはじけた瞬間、ふらふらと漂っていた岩澄の影が白い輝きに溶けこんだ。

『どこだ!』

 光の中から黒い染みが浮かび上がってくるころには、岩澄はすでに視界の縁に手をかけていた。反射的に追いかけるも、気づくのが遅すぎた。旋回から姿勢を立て直した亜那の前に広がっているのは、動き始めた朝の空ばかり。的を探して弧を描く亜那の脇を、氷柱の群れがかすめてゆく。狭まる視野の外側で、いつの間にか風向きは変わっていたのだ。


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