決闘
亜那の細身は、勢いよく空に潜っていった。じりじりと開く差を詰めるため、2秒経ったところで翼を開く。相手に気取られるようでは、立ち上がりに支障がでる。一秒遅れで岩澄が翼を広げ、セオリー通りピッチを上げて上の取り合いが始まる・・・瞬間を、風音は見事にとらえた。岩澄の竜を横目で確認し、通灯を全開にして翼を畳む。視界いっぱいに広がった富良樹の幹が、勢いよく流れていく。鋭い影が赤い壁を経ち、亜那の熱は凍える風を裂く。岩澄が亜那を探しだすころには、すでに亜那の間合いが出来上がっていた。
背後に十分な距離を感じ取り、ひねりを加えて大きく回る。のしかかる重圧に骨がきしみ、皮膜がはちきれそうになるが、力を抜けば失速して外に放り出されてしまう。危うい均衡の上を薄く削って、亜那は綺麗に回りきり、標的の影を視界にとらえる。こちらの動きに気付いて降りてきてはいるが、距離はまだ残っている。岩澄の進路をふさぐ形に、少しはずして叩きこんだ『燻摩』が、ススキ状に広がって岩澄に降りかかった。大回りでの回避を余儀なくされた岩澄を横目に、3秒後の岩澄に狙いを絞る。小さく傾いた姿勢のままで左側に滑り込み、勢いをつけて旋回。上方の岩澄みが視界に飛び込んでくる。大きく翼は風音に向かって広がり、岩澄の旋回が終わっていないのが遠目にもわかった。絶好の間隙に突き立てられた『崇辣』が冷え冷えとした夜明けを刺し貫き、無防備な脇腹に吸い込まれていく。
小さな影に『崇辣』が触れようとしたそのとき、不自然に翻った岩澄の竜が、石火の矛先からこぼれおち、そのままきりもみを始めた。横風だ。とっさに姿勢を整えると、失速した亜那の巨体が空から投げ出される。荷重の抜けた翼が、ふわりと体から浮き上がり、痺れが走ると同時に、一瞬遅れの突風が見えない剛腕で亜那を打ち上げた。岩澄との高度差はみるみる縮まり、覆る。運よく難を逃れた獲物は、目前で姿勢を立て直している。騎士に生まれついただけの岩澄と、自ら騎士になることを選んだ風音。この一瞬に覚悟の差が表れていた。




