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営巣
「……い」
外から呼び声が聞こえてきた。窓から滑り込んだ暁が湿った冷たい空気に滲んでゆらゆらと壁を這う。こんなに早いうちから、何かあったのだろうか。風音は眉間に力を入れて、沈みこんだ私を力技で押し上げるが、息が続かずに再び溺れかかってしまう。暗闇に絡め取られた身体のうちでもがく風音を掬ったのは、さっきよりも幾分大きな声だった。
「不知火!」
暗がりに溶け込んでいた火影が、俄かに浮かび上がってきた。朱く染まった岩屋の壁を、鋭く裁つのは鉄格子。黴の匂いに沈むのは、粗末な寝床と担桶ばかり。風幡家の客室とは見間違うべうもない、慣れ親しんだ洛澄本部の、初めて入った営巣だった。
「何ですか!?」
ため息交じりに聞き返し、両手に顔をうずめて呻く。夢が覚めるのをじっと待ってみるも、鼻を突く糞尿の臭いは、いよいよ眠気を追い払ってしまった。まだ使っていないのだから、中身は他人の置き土産か。指の間から力なく担桶を睨みつけながら、風音はほどけた経緯を織り直した。




