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紡真名
とりあえず相槌を打ってから、窓をたたく音に紛れて、風音はこっそりと溜息をついた。千波も肩の力が抜けて、心なしか血色がよくなったように見えるが、結局真相は薄闇に溶け込んでしまったままだ。言の葉の切れはしを求めて、風音の目がさまよう。
「“紡真名”というのは?」
沈黙を破ったのは、激の方だった。
「ああ、ごめんなさい。“紡真名”というのは、私たちが普段竜と呼んでいるものです。海の民の間では、こちらの名前の方がよく使われるので……」
「“明真名”と“紡真名”か・・・確かに、硝子でできた竜に見えなくもないが・・・とりあえずは、水の天蓋を監視するしかないな。」
今度はゆっくりと立ち上がり、激は深々と頭を下げた。一瞬考えてから、風音も激に倣う。
「風幡さん、貴重なお話しを聞かせて頂き、感謝します。」
千波もあわてて立ち上がり、お辞儀を返す。
「いえいえ、こちらこそ、大した用もないのにお時間を割いて頂いてしまって……お仕事に差し支えがあってはいけませんから、今日はもうお休みください。」
ドアの手前で振り返った風音に、千波が軽く微笑みかける。風音はぎこちなく頷き、部屋を後にした。




