防波堤
人気のない防波堤に、乾いた音が染みわたる。夕凪にのまれるように残響が消え入ると、朱く染まった石の上には、薄く伸びた影だけが残った。船団は、轍辺島に最も近い港に停泊した。千波の実家があるという、水の富良樹の領内でも有数の港には、城のような船舶がひしめいており、空の富良樹を思わせた。入れ違いになる恐れがあるため、前線に戻るわけにもいかず、風音は黙々と日課をこなしていた。
手の甲で額をぬぐい、まだ熱をもった空き缶を置き直したその時、波間に湿った足音が聞こえた。振り向いて構えた右手の先で、宿合が手を振っている。
「よくやるよ、仕事が終わったばかりだっていうのに」
黒ずんでねじ曲がったブリキの残骸をつまみあげ、宿合はため息をついた。
「少しでも差を詰めて早くお役に立てるようにならなければ――」
「頑張りすぎるなよ。強いのは分かったが、無茶はよくない」
さえぎる宿合の以外に沈んだ顔に、風音は一瞬口籠る。
「……十分だと思ったことはありません。現に今回は――」
「やめろよ。そりゃぁ、あいつなら一人でもなんとかしただろうがな」
宿合は、夕日に向かっていくらか進むと、防波堤の端に腰を下ろした。
「でも、今回は俺がいた。あんなことになったのは、お前が弱かったからじゃない。与えられた役割を果たして、少しずつ自信をつけていけばいい」
石にぶつかる波の音と、缶を弄ぶもろい音が、夕日に燃える海と空の間を埋めてゆく。初めて声を荒げた宿合に、風音はうまい答えを見つけることができなかった。
「前にも言ったよな。何のために戦うかは、お前が決めるものだって。必要なのは、目的を果たせるだけの力だ」
水平線の彼方に見える、水の天蓋をめがけて、握った空き缶を投げ捨てる。風音は、潮風に滲んだ夕日を、瞬きもせずにじっと睨んだ。
「私は、あなたとは違います。選ぶ余地など、初めから私にはない」
震える陰に、宿合はなけなしの言葉を絞った。
「……今日はもう遅い。泊めてもらえるように、なるべく早く交渉しよう」
二人が腰を上げたころには、涼やかな陸風が吹き始めていた。




