やっかみ
広場では、式典の準備が滞りなく進められていた。飾り付けも一通り終わって、ステージの脇には、よく磨かれたグラスを乗せた、大きなワゴンが待機している。司会者を探してうろうろしていると、目につくのだろう、人々は、横目でこちらをうかがいながら、しそしそと噂話を始めた。焼けついた石畳に、くっきりと影を縫いつける日差しの中で、冷たい視線に包囲されている。
睨み返しながら、頭を左右に巡らせていると、宿合と目があった。バルコニーの柵にもたれて、小さく手を振っているから、呑気なものだ。風音の表情が変わったことに気付いてか、気づかずにか、声をかけようとした瞬間、ふいと向こうを向いて行ってしまった。
司会者の居場所を宿合に聞きそびれてしまった風音だったが、見つけるのに時間はかからなかった。しばらくすると、司会者の方から声をかけてきたのだ。
「よかった。千波お嬢様、ちょうど係の者に探しに行かせたところです」
人ごみをかき分けてきたのは、口髭を蓄えた、節目正しい老紳士だった。千波が軽く会釈して、要件を聞き出すと、老人は柔らかい微笑のまますらすらと話し始めた。
「実は今回、風幡議長に乾杯の音頭を取って頂く予定になっておりまして、その代役を是非お嬢様にお願いしたいのです。高貴な生まれの方でいらっしゃるし、何よりも議長の実の孫娘であられる。式典に箔が付きますしょう」
「他にもっとふさわしい方がいらっしゃるのではありませんか?」
青い瞳が、揺れていた。先ほどまではとりすましていた、千波のあまりの変わりように、風音は思わず首をかしげる。どうせお飾りで来たのだ。ついでに愛想でも何でもふりまけばよいではないか。
「いえいえ、お嬢様が音頭を取ってくださるとなれば、首を横に振るものはおりますまい。この会場に集まった誰もが、望んでいるはずです。議長がお嬢様をご自分の代わりに御指名になったのも、そこまでのお考えがあってのことでしょう」
「思いにもよらぬ大役を頂き光栄です。慣れないこともありますが、みな様のご期待に添えるよう、精一杯務めます」




