4/77
村
「あそこに見えているのが村なのか。ずいぶん……こじんまりとしているが」
「ちゃうちゃう、あれは漁師小屋。村は丘の向こう側や」
いをりは、顎で白い丘を指した。ところどころに草がなびいているだけで、寂しいものだった。
「……ということは、いをりの家もあの向こうなのか」
何気ない質問は、輝く瞳を曇らせた。いをりは、答えにつまってしまった。
「すまない。いらぬことを聞いたな」
いをりが何か言おうとしたそのとき、遠くで叫び声がした。
「いをり、さっさと来んかい」ゆきとだ。風音はいをりの手を引いた。
できたばかりの足跡を、波が洗ってゆく。さっきと変らぬ様子のいをりを、風音は見つめることができない。結局何も言いだせないまま、小屋の所まで来てしまった。
小屋の影から、無遠慮な視線を感じる。なるほど、不溜人には、昴人は珍しかろう。私はいい暇つぶしか。そんなことを考えているうちに、見物人は増えていく。子どもと違って身の程はわきまえているようだが、遠巻きに観察されるのは決して気分のよいことではなかった。
「風音、こっちや」
気がつくと、いをりがずいぶん先にいた。砂丘の上で、大きく手を振っている。助かった。風音は砂の熱さも忘れ、緩やかな丘を駆け上がった。




