砂浜
風音は、白昼夢の中を歩きつづけた。鈍い足音が、波の唸り声にのまれていく。次第に、背をつたう汗が気になり始めた。この日差しでは、二人がぼろ一枚なのも不思議ではない。逆に、信じがたいのは、彼らが何も履いていないことだ。風音はさっきから、足跡が増えるたびに足がすり減ってはいないか、そんな心配ばかりしている。不溜人の足の裏は、焼けた砂浜を歩けるように、特別分厚く作ってあるに違いない。裾からのぞいた女の子の細った足さえ、風音より頑丈にできているのだ。
「待ってくれ、自己紹介がしたい」なけなしの自尊心から、心にもない台詞が出る。
振り返った少女は、つま先立ちの風音を見て、腹を抱えて笑いながら戻ってきた。
「かざねだ、不知火 風音。」
そっぽを向いて、もごもごと喋った。
まだ苦しそうに堪えながら、「わしは、いをり、あっちが兄貴のゆきとや」と言われて、恨めしそうににらみつける。返ってきたのは満面の笑み、浅黒い手で風音の手をつかみ、海に向かって駆け出した。
「くぉっ」あまりの熱さに、思わず呻く。復讐を誓いつつ、引きずられるようにして波打ち際へと向かう。海がぐんぐん迫ってくる。蠢く巨体は近くで見るほど気味が悪い。海とは、静かな絨毯ではなかったのか。飲み込んだ悲鳴がせり上がってくる。
ついに、覚悟を決める時が来た。左足が、海に呑みこまれてしまったのだ。もう一歩、二歩と、いをりは風音を引きずり込んだ。
恐る恐る目をあけた風音は、はっとして頭を巡らせ、足元を眺めた。初めて入った海の感触は、なんのことはない、ただの水と全く同じだった。心地よい冷たさに、長い溜息が出た。今思えば、
「情けないな」
風音が呟くと、
「丘の人やし、しゃあないって。熱かったやろ。」
と慰めてくれた。
本当はそういうことではないのだが、頬をかいて、ありがとう、とだけ言ってみた。浜風が、青みがかった髪をなで、潮の香りを運んでくる。大きく深呼吸して、いをりに向き直ると、黒い瞳を覗き込んだ。




