表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
telracStream  作者: 筬群万旗
水の天蓋
3/77

砂浜

 風音は、白昼夢の中を歩きつづけた。鈍い足音が、波の唸り声にのまれていく。次第に、背をつたう汗が気になり始めた。この日差しでは、二人がぼろ一枚なのも不思議ではない。逆に、信じがたいのは、彼らが何も履いていないことだ。風音はさっきから、足跡が増えるたびに足がすり減ってはいないか、そんな心配ばかりしている。不溜人の足の裏は、焼けた砂浜を歩けるように、特別分厚く作ってあるに違いない。裾からのぞいた女の子の細った足さえ、風音より頑丈にできているのだ。

「待ってくれ、自己紹介がしたい」なけなしの自尊心から、心にもない台詞が出る。

 振り返った少女は、つま先立ちの風音を見て、腹を抱えて笑いながら戻ってきた。

「かざねだ、不知火 風音。」

 そっぽを向いて、もごもごと喋った。

 まだ苦しそうに堪えながら、「わしは、いをり、あっちが兄貴のゆきとや」と言われて、恨めしそうににらみつける。返ってきたのは満面の笑み、浅黒い手で風音の手をつかみ、海に向かって駆け出した。

「くぉっ」あまりの熱さに、思わず呻く。復讐を誓いつつ、引きずられるようにして波打ち際へと向かう。海がぐんぐん迫ってくる。蠢く巨体は近くで見るほど気味が悪い。海とは、静かな絨毯ではなかったのか。飲み込んだ悲鳴がせり上がってくる。

 ついに、覚悟を決める時が来た。左足が、海に呑みこまれてしまったのだ。もう一歩、二歩と、いをりは風音を引きずり込んだ。

 恐る恐る目をあけた風音は、はっとして頭を巡らせ、足元を眺めた。初めて入った海の感触は、なんのことはない、ただの水と全く同じだった。心地よい冷たさに、長い溜息が出た。今思えば、

「情けないな」

 風音が呟くと、

「丘の人やし、しゃあないって。熱かったやろ。」

 と慰めてくれた。

 本当はそういうことではないのだが、頬をかいて、ありがとう、とだけ言ってみた。浜風が、青みがかった髪をなで、潮の香りを運んでくる。大きく深呼吸して、いをりに向き直ると、黒い瞳を覗き込んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ