市場
「そうだ、風音、片方お前が買えよ。あんだけ物がないんだ。骨董品の一つや二つあった方が、生活に彩りが出るだろ。とりあえず二つとも買って、希耶に好きな方を選ばせる。金は、高い方を俺が持つからさ」
不用意に引っ越しを手伝わせると、後からこういうことになる。金貨の枚数を数えながら、風音は上目づかいで店の主人を睨みつけた。
表に出ると、突き刺さる日差しに目がくらんだ。店に入ったときよりも、随分太陽が高い。両脇にぽつぽつ並んでいた露店は数を増し、喰い破られた木の葉の脈を辿るようにして、足の踏み場を探さなくてはならないほどだった。野菜、果物、魚介類、食器に織物、調度品まで、テントの陰に押し込められた、数え切れない品物が、めいめいの色と匂いを振りまいていた。
「市場に来るのは初めてか」
きょろきょろとあたりを見回す風音に、宿合が後ろから声をかける。
「はい。見たことがないものばかりです――野菜一つとっても、ここではほとんど同じものがありませんし……」
何がおかしいのか、宿合は腹を抱えて笑いだした。
「いやー……お前、箱入り娘だったんだよな。すっかり忘れてた・・・大半が上にも出回ってる食料だよ。お前でも名前は知ってるはずだ。なんたって、富良樹の人口はここらの港に集められた食糧でもってるんだから」
笑いをかみ殺し、苦しそうに説明する宿合に、風音は反撃を試みた。
「では一つお聞きしますが、宿合さんはあの果物の名前をご存じですか?」




