貴人
二人が通されたのは、バルコニーに面した、高い天井の部屋だった。細工の施されたガラス窓はすっかり開け放たれ、彫り込まれた水仙が、鋭い日差しにうっすらと浮かんでいた。柔らかな青い寝椅子に、畏まって沈んだ風音は、それとなく部屋の中を見渡す。瑠璃の桟と、大理石の壁を、金のエッジが上品に切り分け、寝椅子と同じ青の絨毯は、整った毛並みを誇っていた。潮の香りがしなければ、婆羅門の邸宅といわれても信じただろう。実際、不溜人の商人の暮らし向きは、下流の昴人と逆転している。大戦が終わってから、30年の月日が経とうとしていた。
「大したもんだなぁ」
隣で四肢を伸ばす宿合を、風音は横目で咎めたが、確かに豪奢な内装だった。火の富良樹の実家より、金がかかっているかもしれない。宿合の欠伸の向こう、壁際の白磁が目を引いた。誰の作にせよ、不溜人にはもったいない品であることは間違いなかった。
「所詮は成金趣味です。驚くほどのものではありません」
金のノブがゆっくり動く、重たい音が部屋に響いて、風音を飛びあがらせた。二人に厳しい視線をよこす、組合の役員を片手で制したのは、聞いたとおり風音と同じ、いや、それよりすこし年下の、落ち着いた物腰の少女だった。
「陀求社から派遣された護衛の方ですね」
重ねられた白い両手が、わずかに握り直された。いをりの浅黒い手とは違う、苦しみにさらされたことのない手を、風音はよく見知っていた。




