虹の帯
把華を追って奔る虹の間に、一瞬の間隙が生じた。翼端を捻って亜邦をロールさせながら、間合いの中に滑り込む。
『もらった!』
真珠のような外郭に、突き立てようと伸ばした爪に、持てる力を注ぎこむ。張りつめた一瞬の中で、緩慢に近づく敵。勝利がゆっくりと近づいてくる、そんな錯覚に襲われた風音は、かすかな異変に気付かなかった。
亜邦の爪が相手に触れようとしたその時、俄かに脚が曲がりだした。見えないガラス玉の上を、完璧だった攻撃がずるずると逸れていく。一点に生まれた大きなひずみが、瞬く間に夜を覆い尽くした。炎が滲み、街が踊る。水平線の両端が、閉じた楕円を描きだす。激しく揺れる街の上で、均衡を保とうとしたことが、裏目に出た。
姿勢を修正した直後、風音は右から引きずられるような感覚に襲われた。同時に、歪みの中から吐き出される亜邦。幻が引いていくのと交代に、色とりどりの屋根が目に映る。羽ばたきながら反転して速度を殺し、着地する。膝が軋んで音を立て、砕けた瓦が舞い上がる。亜邦が飛退くと同時に、3本の虹が民家を刻んだ。助走をつけて飛び上がった亜邦は、通灯を使って加速しながら、ブレイク、薙ぎ払いを紙一重でかわした。水平に『椏殻』を打ち出して、けん制する。放たれた火球は、命中する直前に大きく曲がり、莫とした夜空に吸い込まれていった。
『いったん離脱しろ!』
滑り降りるようにして、把華が割り込んできた。虹の帯も、把華を追う。通灯をふかして距離を取ってから、もう一度高さをかせぐ。
二回、三回、繰り返し攻撃を試みるも、組みつくことができなかった。黒煙混じりの熱風の中、敵の姿が時折ちらつく。そして、四度目の攻撃が失敗に終わったとき、鍵悟が気づいた。
『風音、直上だ!直上に死角がある!』
相手を引きつけながら、古豪はしっかりと観察を続けていた。目標の真上10余幅の空間には、曲がる虹も届かないようだ。
『分かりました!狙ってみます。』
言うが早いか、弧を描いて跳ね上がる、亜邦。距離をとって直上につき、攻撃の機会をうかがう。すると、異様な光景が視界に飛び込んできた。




