強敵
『あの辺りでしょうか?』
虹の中心とおぼしき場所から、射程ギリギリの距離をとる。
『藪蛇かもしれんが……つついてみるか』
続けざまの『円喇』が、夜空に散らばってゆく。二人は戦輪の行く末を、固唾をのんで見守った。投げかけられた炎の輪は、次々深みにまどろんでいった。ただ一つ、目の覚める当たりを除いて。
『居た!』
夜に弾けた小さな火花が、くすぶる空を燃え上がらせた。着弾点から咲いた光が、すくんだ街を切り刻む。散開した亜邦と把華は、かみそりの上をなぞって、激しく踊る虹を縫った。反撃を試みるも、流れ弾の恐れから、まったく手が出せなかった。街に張り付くように低空に浮いた相手は、着地でもしなければ狙えない。
『蛇にしては不格好だが……距離をとるぞ、風音』
バンクした把華が、夜風の上を滑り下りる。
『了解!』
虹の鞭撃を回避しながら、亜邦も把華の後に続いた。遠のくに従って、攻撃は直線的になり、そして止んだ。小さくなった敵影を振り返り、
『何なんだ、あれは……』
呟く風音の視線の先で、鈍い光を放っているのは、怪鳥からもかけ離れた、奇妙さの塊だった。二つの白い鮑に挟まれるように、透明な細い胴が弧を描き、白い殻に並んだ穴の奥に、虹がうごめいている。
『分からんが……果奈君の推理は当たったな』
いつの間にか、把華が傍までやって来ていた。
『射程が短いのは救いでしたね……こちらからの攻撃も困難ですが』
『密着した状態で叩くしかないか……よし、私が囮になろう』
西寄りの血風にのって、爆発音が渡ってきた。陀求社の方だ。墜ちたのは、敵か味方か――。頭をよぎった心配を、虹の刃が薙ぎ払う。赤い空に並んだ影が、二つに分かれて宙をさまよう。亜邦が相手に向き直ったとき、把華はすでに大きく距離を詰めていた。
逃げ場を失った瞳が、目の前の敵に吸い込まれていく。通灯を全開にした阿那の両翼が、夜空に白い掻き傷を残した。




