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telracStream  作者: 筬群万旗
陽炎の夜
31/77

洞察

 最初に口を開いたのは、果奈だった。

『敵は徐々に洛澄本部から手を引いて、陀求社の方に傾けています』

 鍵悟が軽く頷き、果奈に話しかけようとしたとき、

『支部局長、もう一つ、気になる点があります』

 幾起の裾を引っ張っていた果奈は、鍵悟の鷹揚な答えに目を丸くした。

『ふむ。何かな?』

 重たい眼差しに射抜かれて、流石の幾起も、こわばった顔つきになる。

『自分が、目標を撒くために、市街に入って――』

『玄谷。話す順番が逆だ。こちらの動きが把握されているかもしれない、と言いたいのだろう?』

 風音に先をこされても、幾起は何も言わなかった。

『複雑な経路を辿っていた我々に、速さで劣る相手がついてこられたのは、最短経路を通ったから。すなわち、市中の様子と、 我々の動きを知っていたからではないか、と考えているのです。無論、確証はありませんが』

 一瞬の沈黙の後、鍵悟が唸った。

『指揮系統が存在するのか、鼻が利くのか……後者だろうな』

『ええ、どの個体も動きが単純ですからね。組織だった動きができるようには見えません』

 ゆっくりと把華が立ち上がる。次の動きが決まったようだ。


 亜邦と居虎も立ち上がろうとしたとき、声が上がった。果奈だ。

『ちょっと待って……下さい』

 飛び立つ機会を逸して、鍵悟も気が立ったのか、

『なんだね』

 と、短く聞き返した。

『果奈。自体は緊急を要する。ぐずぐずしてはいられないんだ』

 すげなく黙らせようとする風音をいさめたのは、しかし、鍵悟だった。

『風音、黙りなさい……果奈君、続けてくれたまえ』

 唯祈が一瞬、亜邦の瞳を覗き込んだ。果奈はおずおずと話し始める。

『……はい。ここで偵察を始めてからしばらくして気が付いたのですが――ときどき街の上空に靄のようなものが見えるんです』

『ふむ。確かに気になるな。果奈君、君はどう思う?』

『それが、気のせいかもしれませんが……すっと眺めているうちに、靄がかかる度、敵の配置が変わっているような気がするんです。ですから――』

『何者かがそうやって指示を出している、そうだな』

『はい』

 皆が戦場を振り返ったその時、煙に濁った夜空の上に、鮮やかな虹が舞った。靄と呼ぶには鋭すぎる光が、一瞬だけ昼間の町並みを蘇らせる。そこ知れない冷たさに、心臓が縮みあがった。

『動いた!』

 洛澄本部で戦っていた敵部隊が、一斉に飛び立った。後ずさる足音を、重なり合った怪音が呑み込む。


『調べてみる価値はあるかもしれんな。風音、行くぞ。果奈君と玄谷君は、陀求社に回ってくれ』

 軽く助走をつけた把華は、ふわりと夜風に飛び乗ると、ぐんぐんと上昇していった。震える足で赤土を踏みしめ、大きな背中を追いかける。小さくなってゆく唯祈と居虎の羽音を確かめながら、目の前に広がる暗闇を睨んだ。


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