表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
telracStream  作者: 筬群万旗
陽炎の夜
29/77

脱出

 ほっとしたのも束の間、鋭い音が、左右から近付いてきた。唯祈と居虎だ。まだ敵に追われているらしい。行き場を失った三匹は、同じ通りになだれ込む。一瞬接触しそうになり、ひやりとした。

『見事に追い込まれたな。どうなってるんだ、全く』

『速さは大して変わらないはずなのに!』

 焦った幾起が居虎をバンクさせたため、亜邦と唯祈の軌道が乱れる。阿那の腹が壁にかすって、白い煙が尾を引いた。角を曲がって、敵がついてくる。全部で6羽。ぴたりと陣形を崩さない。

『どこかで反撃しないと……どこか広い』

 突然の思いつきに、思い切り加速をかけると、二匹との差が広がった。

『こっちだ。広場に戻るぞ』

 不意をつくには、視界を抑えろ。北の広場の西口も、T字路になっていた。まとまって出てきたところを、一度に仕留めるほかない。


 亜邦を先頭に、三匹は全速力でT字路をぬけた。垂直にバンクさせた翼が、身体の重みにきしむ。広場の入り口、街灯の真上を通り過ぎた。稼いだ時間を信じて、亜邦の頭を持ち上げ、仰向けになるまで反転させる。唯祈と居虎が通り過ぎたその時、速度が殺されて無防備になった亜邦の眼前、6羽の怪鳥が角を曲がってきた。


 亜邦の口にふくまれた炎が、無数の矢になって敵に降り注ぐ。夜の広場は、灼けた鉄の色に染まる。風音の賭けは成功だった。手加減なしの『崇辣』が、逃げ遅れた追手達を八つ裂きにした。落下する亜邦の頭上を、輝く剥片が通り過ぎるのを見て、風音は胸をなでおろす。

 燃えかすが石畳に当たって、広場に戻った闇の中に、乾いた音が響き渡る。通灯を使って勢いを殺し、静かに着地すると、風音は背後を確認した。射程の短い『燻摩(グゥマ)』を使ったことが功を奏したようで、民家に傷は見当たらない。頭の後ろに残った軽い痺れの中で、緩やかになっていく鼓動を感じた。

 

『助かった……よく思いついたね』

 唯祈と居虎が戻ってきていた。靄のかかった頭の中で、置き忘れたものを思い出せず、果奈への答えも見つからず、伸ばした手は空を切るばかりだ。

『いや、大したことはない。それに……』

 次第に鮮明さを取り戻す意識の中で、目的地を思い出す。

『急がなければ。ずいぶんと時間を取られてしまった』

 そもそも、見つかったこと自体が失敗なのだ。ぼんやりしている暇はない。

『うん、墓地は……もう、すぐそこだから』

 亜邦の爪が、石材のひやりとした感触をつかみ、大きな体を押し出した。波を捕まえるように、調子を取って羽ばたく。唯祈も続いて飛び立ったが、居虎だけが、ぼんやりとした闇の中に立ちつくしていた。

『玄谷、何してる。さっさとしろ』

 風音の言葉に従うも、しぶしぶといった様子で、動きに締まりがない。

『わざとじゃないだろうな。いい加減にしろ!』

 抑えきれずに噴き出した言葉に、幾起は意外な返事をした。

『不知火、俺達――俺達』

 南の方でまた一つ火の手が上がった。夜空に塗り固めた黒煙の上に、踊る炎が赤い影を落とす。

『俺達、なんであんなに距離をかせげたんだ』

 風音の背後に立ち昇った黒煙が、幾起には見えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ