追撃
高度を下げて、北の大通りに侵入する。追手を目の端に捉え、脇道へ。狭い路地なら、飛び道具も使いづらく、数の利も生かせない。民家を盾にするのはためらわれたが、逃げきることができるなら、被害も少なくて済むはずだ。夜に沈んだ碁盤の目を、記憶を頼りに縫っていく。阿那の巨体が通り過ぎると、路傍の看板が木の葉のように舞い上がった。窓の灯りが、滝より早く流れてゆく。
大通りに出た時、相手がそろそろ引き離されてきただろうと、風音は後方を確認した。視界の限られた夜間、熟知していなければ、市内を飛ぶことなどできないはずだ――安易な楽観は、鋭い影に打ち砕かれた。
二羽の怪鳥は、まったく引き離されていなかった。それどころか、距離を縮めてきている。予想外の戦況に、歯車が狂い出す。わが目を疑った一瞬が、風音にとって最も大きなミスだった。突き当りだ。風音は完全に旋回する機会を失った。迫る民家と、背後の敵。目の前が、広がる壁面でいっぱいになる。
しかし、戦慄に視界が覆われたその時、かすかに差し込む一筋の光が見えた。阿那を無理やりロールさせ、無我夢中で体をねじ込む。風音の眼には、もはやそれ以外何も映っていなかった。阿那の腹が壁面にかすり、焼けるような痛みが走る。はてしなく遠い出口が滑りこんだとき、目の前で光が弾けた。開けた視界に、北の広場が飛び込んでくる。学生時代にも、何度か通ったことのある裏道だった。
ほっとしたのも束の間、鋭い音が、左右から近付いてきた。唯祈と居虎だ。まだ敵に追われているらしい。行き場を失った三匹は、同じ通りになだれ込む。一瞬接触しそうになり、ひやりとした。
『見事に追い込まれたな。どうなってるんだ、全く』
『速さは大して変わらないはずなのに!』
焦った幾起が居虎をバンクさせたため、亜邦と唯祈の軌道が乱れる。阿那の腹が壁にかすって、白い煙が尾を引いた。角を曲がって、敵がついてくる。全部で6羽。ぴたりと陣形を崩さない。
『どこかで反撃しないと……どこか広い』
突然の思いつきに、思い切り加速をかけると、二匹との差が広がった。
『こっちだ。広場に戻るぞ』
不意をつくには、視界を抑えろ。北の広場の西口も、T字路になっていた。まとまって出てきたところを、一度に仕留めるほかない。




