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telracStream  作者: 筬群万旗
陽炎の夜
27/77

初陣

『やっぱり、戦うつもり?』

 期待どおり、市街より東には、敵影はなかった。目を凝らすと、赤く染まった空に、ちらほらと影が見える程度だ。

『当たり前だ。何のために訓練してきたと思っている』

 前線から距離があいて、いつもの大口が戻ってきた。しっかりと風をつかんで少しずつ左に力を加えていく。

『それはそうだけど……他にも何か仕事があるかもしれないし……』

 果奈も戸惑っていることを知って、風音は得意げに説明した。

『……実戦経験のあるものなど、半分もいない。ここしばらくは戦争も起きていないからな』

『……ビハインドはないっていうのね』

 西寄りの風が、炎上する市街から、焦げ付いた熱気を運んでくる。やや左向きに姿勢を固めると、亜邦は勢いよく風の上を滑り始めた。

『それが証拠に……あいつだって闘っていたじゃないか』

 自分にできないはずがない。戦火をにらんだ亜邦の瞳に、ひらひらと舞い散る3つの影が映り込む。居虎だ。敵ともつれるままに、ずるずると北に移動していた。

『ねえ、風音。あれ、だんだん近づいてない?』

 影が大きくなるに従って、芳しくない状況が見えてきた。居虎は上から押さえつけられて、逃げ回っている。

『病み上がり!こちらへ誘導できるか』

 少し間があって、幾起からの応答があった。

『よりにもよってお前なんかに……くそっ、分かりましたよ』

 二匹の姿を見つけるが早いか、居虎はぐんぐんと迫ってきた。同期の中に、通灯を使った居虎に追いつける者はいない。目標も、次第に距離を離される。音で居虎を確認しつつ、小さく斜め上に旋回。阿那は、滑り降りるようにして目前の勝利に飛びかかった。直交する軌道の上の、一秒先の目標、一秒先の目標に、1発、2発。型通り放たれた『椏殻』は、硝子の怪鳥に吸い込まれていった。着弾と同時に、光の欠片が弾け飛ぶ。舞い散るともしびを潜り抜け、風音は初めて兵になった。

『いきなり貸しができてしまったようだな。玄谷』

 ゆるやかな弧を描いて、二人に合流するやいなや、風音は幾起に食ってかかった。

『大人気ないぞ……チクショウ』

『素直でよろしい。おまけに一つ連絡だ。「各自北の墓地に向かい、現地で合流」』

 一同は、少し左へ進路を変える。街を蝕む炎が遠ざかり、快い夜の風が熱をぬぐっていった。

『……了解』

 幾起が渋々従おうとしたとき、果奈が近づく影を見つけた。

『風音、今の爆発で見つかったみたい。後方に6、1,5公理』

 静かな夕闇の中で、遠くの炎が揺れていた、競技場から引いてきたのか、増援の一部か。こちらの動きの変化に気付くと、ゆらゆらと立ち昇った虹の翼は、尾を引きながら加速を始めた。

『ふん、やはり助けるべきではかったか』

『誰が助けてくれなんて言ったよ』

『誘導には従ったくせに』

 聞き慣れた喧嘩を果奈が抑えた。

『……多いね、大丈夫?』

 雑音と入れ替わりに、張りつめた冷たさが浮かび上がる。

『散開して市街に逃げ込む。撒いてから目的地で合流』

 通灯を全開にして、左に折れる。遅れて、唯祈と居虎もブレイクした。

『クッ、……しょうがねえ』

 流石の幾起にも、3対6で戦うだけの気力はない。


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