奇襲
怪音が鳴りやむ前に、別の音が近づいてきた。耳障りなことこの上ない、居虎の通灯だ。
応戦は、すでに始まっている。風音は奥歯を噛みしめた。
「いくぞ、果奈病み上がりに後れを取ってたまるか!」
ついさっきまで震えていた足で、勢いよく砂利を蹴り出し、果奈の手を引っ張った。果奈もつられて、走り出す。一列目の厩舎の横をとおりすぎると、亜邦たちのいる、二列目が目の前に広がった。
「右から、二つ、いや、三つ目だったか?」
「左から二つ目。来た時とは反対だよ」
思ったよりも、落ち着いた声だった。
急ごう、と言いかけたそのとき、背中を冷たい汗が伝った。振り向いたが、誰もいない。急速に広がっていく、火の手が見えるだけだった。すると突然、その景色の中で、赤く、燃えあがる、炎が、大きく、歪んだ。
「風音?」
果奈もまた、戦慄しているらしかった。
風音が果奈の手首を掴んだ瞬間、目の前の闇から、冷たい光が浮かび上がった。竜ほどの大きさもあるそれは、透き通った頭をこちらに向けて。青白い光弾を掃射してきた。
手じかな厩舎に果奈を引き込む。怪音は、頭上を通り過ぎて行った。薄闇の中、鎖の音と竜の咆哮が花崗岩の天井に反響して、巨大な厩舎がパニックで溢れかえる。
「ごめんね、風音」
果奈は、服に付いた埃を払い落した。
「そんなことより……帰ってくるだろうか。」
制服のポケットから、鍵を取り出す。
「無茶しないで。なるべく早く逃げてね」
受け取った亜邦の鍵を、果奈は大事そうにしまった。
そのとき、天井を砕きながら、青白い光弾が無数に飛び込んできた。飛退いた二人の間に、赤く焼けた痕が並んだ。果奈になけなしの笑顔を見せて、風音は壁に開いた大穴に飛び込む。
「急げ!」




