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telracStream  作者: 筬群万旗
陽炎の夜
22/77

明真名

ふと、外れたところに花火が上がったような気がした。何の気なしに、そちらを見やる。

「果奈、今」

「何?」

「あっちのほうに、今、上がらなかったか?」

 風音は、東の空を指した。

「上がったって、花火?東側だよ?」

 やはり、気のせいだったようだ。洛澄本部は、空の富良樹の東端に位置している。その先は、更地どころか、断崖絶壁だ。

「すまない、見当違いだったな」

 風音が前を向こうとしたそのとき、次の花火が上がった。今度は、見間違いようがない程輝いていた。眩しい尾を引くでもなく――反射しているのだ。水晶のかけらを夜空にちりばめたような、無数の輝きが、東の空に広がっている。

「父上!」

 とっさに振り向くと、鍵悟は家で見せるのとは違う顔をしていた。

「亜邦はどこに」広場の空気が、張りつめていく。

「南の厩舎です」

 着いた時には、それしか残っていなかったのだ。果奈が、ばつの悪そうな顔をする。

「私は哨戒に参加する。本部の上空で、待機するように。大至急」

「了解」

 すでに、いくつかのグループが動き出している。二人も、後れを取らぬよう、走り出した。広場の西口を抜け、本館の廊下を南に。必死で人ごみをかき分ける。南口を飛び出した瞬間、また花火の音が聞こえてきた。間抜けな歓声を耳障りに思ったのか、果奈がふりかえる。

「果奈、早く――」

 立ちすくむ果奈の視線の先で、競技場が、燃えていた。歓声などではなかった。目を見張り、探した。洛澄の張った網を潜り抜けてきた、敵の姿を。一体、どんな竜なのだろう。

 次の瞬間、立ち上る黒煙の中から現れたその影が、一層大きく開かれた、四つの瞳に映り込む。後ずさった果奈の背中が、風音の肩にぶつかった。

「あれ、何、あれは」

 風音の耳には、入らない。

明、真名(アカ・マナフ)……」

 頭上を通り過ぎたのは、硝子細工の翼だった。魂よりも透明で、亡骸よりも空っぽな、硝子の翼。振り向いた視線の先には、もはや影さえ残らない。風を切る怪音だけが、夜の帳に突き刺さる。


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