明真名
ふと、外れたところに花火が上がったような気がした。何の気なしに、そちらを見やる。
「果奈、今」
「何?」
「あっちのほうに、今、上がらなかったか?」
風音は、東の空を指した。
「上がったって、花火?東側だよ?」
やはり、気のせいだったようだ。洛澄本部は、空の富良樹の東端に位置している。その先は、更地どころか、断崖絶壁だ。
「すまない、見当違いだったな」
風音が前を向こうとしたそのとき、次の花火が上がった。今度は、見間違いようがない程輝いていた。眩しい尾を引くでもなく――反射しているのだ。水晶のかけらを夜空にちりばめたような、無数の輝きが、東の空に広がっている。
「父上!」
とっさに振り向くと、鍵悟は家で見せるのとは違う顔をしていた。
「亜邦はどこに」広場の空気が、張りつめていく。
「南の厩舎です」
着いた時には、それしか残っていなかったのだ。果奈が、ばつの悪そうな顔をする。
「私は哨戒に参加する。本部の上空で、待機するように。大至急」
「了解」
すでに、いくつかのグループが動き出している。二人も、後れを取らぬよう、走り出した。広場の西口を抜け、本館の廊下を南に。必死で人ごみをかき分ける。南口を飛び出した瞬間、また花火の音が聞こえてきた。間抜けな歓声を耳障りに思ったのか、果奈がふりかえる。
「果奈、早く――」
立ちすくむ果奈の視線の先で、競技場が、燃えていた。歓声などではなかった。目を見張り、探した。洛澄の張った網を潜り抜けてきた、敵の姿を。一体、どんな竜なのだろう。
次の瞬間、立ち上る黒煙の中から現れたその影が、一層大きく開かれた、四つの瞳に映り込む。後ずさった果奈の背中が、風音の肩にぶつかった。
「あれ、何、あれは」
風音の耳には、入らない。
「明、真名……」
頭上を通り過ぎたのは、硝子細工の翼だった。魂よりも透明で、亡骸よりも空っぽな、硝子の翼。振り向いた視線の先には、もはや影さえ残らない。風を切る怪音だけが、夜の帳に突き刺さる。




