祝宴
新入隊員代表の仕事は、一言の挨拶と、6度の敬礼だった。貴賓席の父と、一瞬目が合う。誇らしげな面持ちに、熱くこみあげてくるものを感じた。新たな芽吹きのためとはいえ、そこにはたしかに実を結んだものもあったのだ。隊列に戻った後も、しばらく反芻していたために、閉会の辞をしくじるところだった。
式が終わると、色とりどりの料理をいっぱいに積んだ台車が、次々会場に流れ込んできた。丹念に打ち込まれた銀の蔦の葉一枚一枚に、燭台の灯が踊っている。待ちに待った祝宴の時間だ。
賑やかな広間を抜けだして、風音は果奈の姿を探した。石造りの回廊には、柱の影が切り取られたようにして横たわっている。
その中に、二人の姿があった。
果奈が話し込んでいた相手は、幾起ではなかった。見慣れた影は、鍵悟のものだった。内容までは分からないものの、話は弾んでいるらしかった。
「何の話ですか、父上」
ひょいと覗き込んだ風音は、意外にも鍵悟を驚かせてしまったようだった。
「か、風音か。どうしてまた……」
「風音には言えない話」
代わりに、果奈が答える。悪戯をしたときにする、得意げな澄まし顔だった。
「話……私のか?」
風音は気色ばんだ。果奈はくすりと笑って、付け加える。
「うん。みんなも誉めてたよ。女の子で初めての主席だし、鼻をあかしてやれたって。さっきまでは一緒にいたんだけど……」
「私は、付き人狙いの軟弱な連中とは違う。何もおかしなことではない」
おまけ抜きで認めさせるには、まだまだ精進が足りないらしい。風音は、両の拳を握り締めた。
「そろそろ、花火の時間だ。私たちも、よく見えるところに移ろう」
鍵悟が、ぎこちない口調で元気づけようとした。
三人は、広場の隅に静かな一角を見つけると、ぽつぽつと話を始めた。
「風音、試合、見たぞ」
支部局長が欠席などすれば、顰蹙もののはずだが、他に思いつかなかったらしい。
「ありがとうございます。父上。――ご期待にそえましたか?」
鍵悟は壁にもたれかかったまま、背伸びをした。上着の袖口から、包帯のかかった左腕が覗く。風音たちにとっては大戦を知っている彼は、特別な世代の人間だった。
「うむ。自慢の種がまた一つ増えた。玄谷も悔しがっていたよ」
鍵悟は風音の肩をそっと叩いて、果奈と向き合った。
「それから、果奈君もよくやってくれた。七年目に風音が引っ張ってきたときには、失礼だが、ここまでできるとは思ってもみなかった……今後とも、風音のことをよろしく頼む」
「いえ、これもみんなおじさまのおかげです。あのとき取り立てて下さらなかったら、今頃私も母も、路頭に迷っていたでしょう」
そのとき風音は、肌をさす視線を感じた。右端にある台車の傍、小うるさいだけが取り柄の三人組だ。
「謙遜することはない。きっかけを与えたのは私かもしれないが、今の君を支えているのは君の力だ」
当人の前で蔭口に花を咲かせるうかつ者に、ぎらりと鋭い釘を刺す。
「どうしたの、風音」
果奈も気づいていたらしい。気勢をそがれて、うまく顔が作れなかった。風音が何かを言い出そうとしたそのとき、轟音に会場が震えた。祝宴の終わりを告げる、色とりどりの花火の音だ。太陽の子供たちが躍り出すと、あたりが昼間のような明るさに包まれた。
風音は、静かにため息をつき、明るい夜空に見入った。一つの山を越えたような気がして、胸が高鳴る。特務隊は精鋭ぞろいだ。もう、これ以上屑の相手をする必要はない。耐える必要も。一つの時代が、終わろうとしていた。




