表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
telracStream  作者: 筬群万旗
陽炎の夜
18/77

宿敵

 食事を済ませて戻ってきた後は、予定通り、卒業生の控室に向かった。「早くからみんな集まってるだろうし」と果奈が顔を出したがったのだ。ところが、影に沈んだ渡り廊下の半ば、風音は急に呼びとめられた。

「よう、不知火。果奈も、元気してたか」

「玄谷か。なんでこんな所にいる」

 負けじと風音は食ってかかった。

「せっかく石膏人形にしてくれたのに悪りィな。しぶといのが取り柄でね」

 こうは言っているが、頭の包帯が痛々しい。強がりもいいところだ。

「あれだけ痛い目にあって、よくもまあ……懲りない男だ」

 大げさに肩をすくめて、踵を返すと、

「あの程度で兜を脱ぐと思ったら、大間違いだからな」

 大理石の床に革のこすれる大きな音が、廊下の賑わいを切り裂いた。幾起は、目を丸くする。いままでの風音が、とり合った例がなかったのだ。

「幾起、風音まで。ホラ、みんなに見られてるよ」

 ぶつかった視線を見つめて、立ち止まる者が出始めた。静まった人ごみが、再びざわめきだす。風音は、口ごもったまま、視線を宙に漂わせた。一体なぜこんなことになるのか、まるで見当がつかない。

「そうだ、幾起。これからみんなの所に顔を出しに行くところだったんだけど、よかったら、一緒に来ない?」

 果奈の助け舟に、幾起は頭をかきながら、ばつが悪そうに応じたものの、風音は黙りこくったままだった。張りつめた無表情の下で、何かを考えているのか、一人分の静けさの中にたたずんでいる。果奈の揺れる瞳だけが、その壁の向こうを捉えていた。

 風音が口を開いたのは、しばらくして、再び雑踏が流れ出したときだった。

「そういえば、もうすぐ式の打ち合わせの時間だった。先に行っておいてくれ」

「そう、それじゃ、頑張って……」

 一言だけ言い残して、薄闇の中に沈んでゆく風音が、一度だけ振り返った。目に映るのは、ただ、流れてゆく人ごみばかりだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ