空の都
果たしてそこには、空の富良樹が広がっていた。十二の風音を圧倒した、そのままの威容である。一対一対幹からまっすぐ枝がのびた火の富良樹とは違い、ぐねぐねと放射状に開いた枝ぶりは、むしろ植物の根を思わせる。絡み合った枝の上に、四国とは比べ物にならない、あふれかえるような街並みが広がっている。
『風音!』
遅れて、果奈も這い出してきた。
《たったの2週間ぶりにしては、随分と離れていたような気がする。妙なものだな》
『豊作、とはいえ、具体的なところまでは分からないな』
『時期が良かったみたい。王室からは4口、婆羅門からは8口も募集があったんだって』
卒業試験を見ているのは、何も洛澄の関係者だけではない。姫君の護衛は、女性士官を目指すより、ずっと割に合う仕事だった。女性限定で競争率も低く、養成学校に青春を投じる少女のほとんどにとっては、まさに本命だった。
『ふん、果奈のほうが詳しいじゃないか。しかし、そうなると入隊組は私たちくらいのものか』
気のない返事に、果奈は少し話を振ってみた。
『あのね、もしも、だけど……非番が重なったらさ、』
『ああ、あの店にもまた行ってみたいが……相手は他にいるんじゃないのか』
『またそんなこと言って……』
速度を殺して、ゆっくりとアプローチをかける。空の富良樹の樹幹に広がる街は、あの街と、確かにどこかで繋がっていた。見慣れた翠の屋根が、会場の目印だ。
洛澄本部の広場は、入隊式の関係者であふれかえっていた。風、火、水、土、四国の空から集まった竜が、次々と舞い降りてくる。なんとか空きのある厩舎を見つけて、亜邦と唯祈を預けることができたのは、幸運だった。
「すごい人だね。なんだか、いよいよって感じがする」
「賑やかなのはいいが、流石にこれはな。食堂も混んでいるだろうし」
「それじゃ、その、さっそく」
果奈の提案は、風音の耳には届かなかったらしい。風音は早くも人ごみをかき分けていた。返事が来たのは、2回目に叫んだときだった。




