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telracStream  作者: 筬群万旗
陽炎の夜
16/77

 無事出発できた時には、すっかり影が短くなっていた。倍になった荷物をぶら下げ、雲の間を縫って翔る。空の富良樹に近づくにつれ、雲の形や、風の匂いも変わっていった。二人はその間、他愛ないおしゃべりや、その合間に訪れた静寂を楽しんだ。

『風音……本当にあれだけで生活するつもりだったの?』

『せっかく荷物を減らしたと思ったら、これだからな』

『柏木さんが、せっかく用意してくれたのに』

『……』

 翼の先をよじって風を捕まえると、亜邦の体はぐんと持ちあがった。通灯を使って追いついてきた唯祈を目の端で認める。

『片付けなら、私、手伝うから……』

『違う。小回りが利かなくなるからだ。いざという時に戦えないようでは、兵とはいえない』

 雲をよけるため、体を左に傾けて大回りに曲がった。掴んだ荷物が、振り子のように戻ってくる。右肩に力を入れて、輝く白の上澄みをなぞった。

『そうだ、風音。昨日、あのあとどうなったの?』

『あの後?母上のことか』

『うん、ほら、今朝もお見えにならなかったし……』

『大したことは言われなかったぞ。さすがにもう分かっていらっしゃるのだろう、もう止めるには遅すぎる』

 雲の影に入ると、静かに肌寒さが這い上がってきた。

『……そっか。うん、それなら、いいんだけれど』

『迂回は面倒だ。突っ切るぞ』

 目の前に現れた、ひときわ大きな雲に、風音は飛び込んでいってしまった。

『風音、待ってよ』

 渋々、果奈もついてゆく。

 雲の中は、鈍い灰色で満ちていた。通り抜ければ、この雲の先に空の富良樹が視界に入るはずだが、どんよりと、どこまでも底がない。風音は、思わず母の言葉を思い出す。果奈にも、同じことを言われるかもしれない、いや、確信が持てないから、言わずにいるだけなのだ。いきなりの突風にあおられ、はっとして唯祈の姿を後方に求めた、そのときだった。目の前で、光が、弾けた。 


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