墓参り
薄く伸びた石柱の影の間にいたのは果たして果奈だった。帰省の際には、欠かさず参っていた。
「私も、いいか」後ろから声をかけると、
「うん」と呟くように答えて、果奈は静かに立ち上がった。
「挨拶するのを、すっかり忘れていた。しばらくは帰ってこれないからな」
小さく手を合わせて、跪く。
「風音……風音は、内定が入ったとき、誰に一番に知らせようと思った」
「ど、どうしたんだ……そんな藪から、棒に」
語尾が上ずってしまった。長い影を眼でなぞる。
「私はね、風音だったな。お母さんでもなかったし、この人でもなかった……会ったことはないけれど、初めて聞いたときは、それはショックだったし、志願したのも、この人の家督を買い戻すためだったのにね」
何を説得しようとしているのか、風音にはさっぱりだった。果奈は続けた。
「でもね、本当は、そういうものなのかもしれない。それはそれで寂しいことだけど、そうじゃなかったら、生きていけないんだよ、きっと」
風音は、立ち上がって弁解した。
「いや、そうじゃない。その、何だ」
「え?」
「墓参りじゃなくて、逆……でもなくてだな」
「ごめん……何かあったの?」
果奈は顔を伏せて、上目がちに聞いてきた。
「昨日、妙な話を耳にしたんだが……絶対信じないぞ」
口を衝いて出てきたのは、自分にも思いがけない一言だった。
「あの島?」
「ああ、不溜人の老人なんだが……自分の一族が、水の天蓋の向こうからやってきたというんだ」
言葉が引き出されていくに従って、少しずつつかえていたものがほぐれていった。
「所詮、不溜人の戯言だ。それに、万が一本当だとしても、生きているはずがないことも、分かっている」
「いいんじゃない。信じれば」
果奈は迷わずに答えた。
「まさか、笑い物に……いや、咎められるべきかもしれない」
風音は、足元に視線を落とす。
「それでも、生きている可能性があるんでしょ。ダメもとで、信じてみなよ」
伏せた顔を上げると、いつもと変わらない微笑みが、そこにあった。力なくぶら下がった両手を拾い上げた果奈の手を、風音はぐっと握り返す。
「ありがとう」
思い出だけが眠る墓に、用などあるはずもない。暁光の中に立つ果奈の微笑みが、風音には見えていた。
「出発まで時間がない。急ごう」




