走り込み
霞んだ背中を追いかけて
歪んだ道をひた走る
両脚に鞭をうって
十四の歳をけって
はまり込んだ深みの底に
向かっていると知りながら
街で一番早く起き出すのは、昴人に仕える使用人達である。水平線が白む前から、長い一日の支度が始まる。そんな街の様子を眺めながら走り込んで汗をかくのが、風音の日課の一つだった。
いつもより早く目を覚ました風音は、ぼんやりとした頭で、昨日の出来事を反芻していた。墜落、漂着、白い砂浜、暗い部屋、姿の見えない老婆と、突き刺さるいをりの眼差し。あまりにいろいろなことが起こりすぎて、また妙な夢を見てしまった。
思い切りをつけて寝台から飛び起き、顔を洗って着替えを済ませる。ふと思い出して、已然石を指に通す。「椏殻」、「崇辣」、「吐呪」。透き通った石に刻みこまれた態話詫が、窓越しの朝日にきらめく。物々しい装備だが、用心に越したことはない。階段を降りて、重たい黒檀の扉を押し開く。
ほの暗い石造りの通りにいるのは、井戸端で世間話をしたり、店の戸板を外したりしている上葉人くらいのものだった。長靴の底が軽石を叩く乾いた音が響き渡る。透き通った風が、体の中を吹き抜けていくような気がした。
出発の時刻を思うと、少し心配があったが、果奈の顔を見ていこうと、風音はそのまま町はずれに向かった。明るくなるに従って、町並みは少しずつさびしくなり、石畳が途切れると、そこはもう墓場の前だった。
柄杓を持った墓守は、右手を見せるとおとなしく下がった。已然石の威力が発揮されるのは、空戦や地上戦だけではない。専らの用途は、ちょっとした身分証明なのだ。粗い砂利を踏みしめて、奥へ向かった。




