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telracStream  作者: 筬群万旗
陽炎の夜
13/77

走り込み

霞んだ背中を追いかけて



歪んだ道をひた走る



両脚に鞭をうって



十四の歳をけって



はまり込んだ深みの底に



向かっていると知りながら



 街で一番早く起き出すのは、昴人に仕える使用人達である。水平線が白む前から、長い一日の支度が始まる。そんな街の様子を眺めながら走り込んで汗をかくのが、風音の日課の一つだった。

 いつもより早く目を覚ました風音は、ぼんやりとした頭で、昨日の出来事を反芻していた。墜落、漂着、白い砂浜、暗い部屋、姿の見えない老婆と、突き刺さるいをりの眼差し。あまりにいろいろなことが起こりすぎて、また妙な夢を見てしまった。

 思い切りをつけて寝台から飛び起き、顔を洗って着替えを済ませる。ふと思い出して、已然石(ヴィザルガ)を指に通す。「椏殻(アガラ)」、「崇辣(スーロ)」、「吐呪(テジュス)」。透き通った石に刻みこまれた態話詫(ディーヴァタ)が、窓越しの朝日にきらめく。物々しい装備だが、用心に越したことはない。階段を降りて、重たい黒檀の扉を押し開く。

 ほの暗い石造りの通りにいるのは、井戸端で世間話をしたり、店の戸板を外したりしている上葉人くらいのものだった。長靴の底が軽石を叩く乾いた音が響き渡る。透き通った風が、体の中を吹き抜けていくような気がした。

 出発の時刻を思うと、少し心配があったが、果奈の顔を見ていこうと、風音はそのまま町はずれに向かった。明るくなるに従って、町並みは少しずつさびしくなり、石畳が途切れると、そこはもう墓場の前だった。

 柄杓を持った墓守は、右手を見せるとおとなしく下がった。已然石の威力が発揮されるのは、空戦や地上戦だけではない。専らの用途は、ちょっとした身分証明なのだ。粗い砂利を踏みしめて、奥へ向かった。


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