富良樹
冷えこみ始めた風の中を飛び続けると、闇の溶け合う水平線から、淡い光がこんこんと湧き出すのが見えた。
《見えたぞ。私たちの家だ》
《うん、あったかい。ここまで熱が伝わってくるみたい》
近づくにつれて、火の富良樹はその全貌を明らかにしていく。島の上にそびえる巨大な幹。まっすぐ天に突き刺さる頂端。家々の明かりがちりばめられた、太い枝は、流れる風に熱を与えている。上代の人は、富良樹を、天を支える柱と呼んでいた。
二匹は富良樹の周りを旋回しながら、高度を少しずつ上げていった。失速を避けるため、通灯を使わなければならなかった。阿那の甲羅から、虹色の炎が噴き出す。翼に強い力がかかって、小刻みに震え始めた。上葉人の居住層を通り過ぎると、商業層にさしかかり、下流の昴人の居住層が見えてくる。不知火の屋敷は上から二番目の枝にあり、その上には神殿と紅色宮があるだけだ。
枝に近づくと、まばらにいくつもの桟橋が見えてきた。暗くてよく見えないため、風音は隣の家の桟橋に泊まりかけた。軽く羽ばたいて制動をかけ、静かに着陸する。
亜邦と唯祈を厩舎に戻すと、風音は
「丸一日付き合わせてしまったな。埋め合わせにはならないかもしれないが、呼ばれていってくれ」
と誘ってみたが、果奈の答えは、風音を驚かせた。
「じゃあ、約束してくれる」
「あ、ああ。分かった」
風音は果奈の勘の良さを知っていた。
「もう二度と、こんなことはしないで」
落ち着くまで、口にするのを憚っていたらしい。
「うん」
風音は、振り返らなかった。
「ありがとう」
丸まった背中に、果奈がそっと声をかける。
「行こう。みんなも心配してるよ」
冷え冷えとした夜の風が、静けさを埋めていった。




