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パトローネはタイムカプセル 家族の肖像  作者: しゅんたろう as Augai Moritz


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あとがき ――フィクションという名の、私自身の物語――


最後までお読みいただき、ありがとうございました。


ここで、少しだけ種明かしをさせていただきたいと思います。


実は、この物語の語り手である「私」は、作者自身です。


もちろん、本作は小説です。

登場人物の名前を変え、出来事に脚色を加え、時には想像の翼を広げて描いた部分もあります。しかし、明治の漢方医に始まり、女医となった祖母、医師として生きた父、そして私から息子へと続く五代の系譜には、私自身の家族の歴史が重なっています。


つまり、この物語は、フィクションという衣装をまとった、私自身の家族の物語でもあるのです。


書き始めたきっかけは、拙作『日常すれすれ』の一編「パトローネはタイムカプセル」でした。


古いカメラの中に残された一本のフィルム。そこに閉じ込められていた、若き日の父と母の笑顔。


その小さな物語を膨らませていくうちに、私のなかで、祖父母や両親、そして子供たちの姿が次々とよみがえってきました。


医師としての人生を振り返るつもりが、いつの間にか、家族の歴史をたどる旅になっていたのです。


書きながら、改めて気づいたことがあります。


私たちは、自分の両親のことを、案外知らないものです。


父にも母にも、私が生まれる前の青春があり、夢があり、悩みがあり、そして二人だけの時間がありました。


子供にとって、父は最初から父であり、母は最初から母です。しかし、当たり前のことながら、彼らもかつては若者であり、恋人であり、それぞれの人生の主人公だったのです。


そして、私自身も、いつの間にか父となり、祖父となりました。


かつては理解できなかった父の言葉が、今では少しわかるようになりました。母が繰り返していた何気ない心配の言葉も、今では懐かしく、ありがたく思えます。


不思議なものです。


親の気持ちは、親と同じ年齢になって初めてわかることがある。そして、その頃には、もう直接伝えられない感謝もあるのです。


本作の最後に描いた、母との再会。


それは、私が心のどこかで願い続けていた再会でもあります。


コロナ禍のなか、十分な別れもできずに逝ってしまった母。伝えそびれた「ありがとう」は、今も私の胸に残っています。


だからこそ、せめて物語のなかでは、もう一度母に会いたかった。


そして、母に伝えたかったのです。


「みんな元気にしているよ。幸せに暮らしているよ」と。


この物語を書くことは、私にとって、少し遅くなった母への近況報告だったのかもしれません。


そして、九十二歳になった今も元気で、「百歳まで生きる」と言っている父にも、改めて感謝を伝えたいと思います。


私に医学への道を示し、音楽や芸術を楽しむことを教え、何より、いくつになっても好奇心を失わずに生きる姿を見せてくれた父。


若い頃には、父とは似ていないと思っていました。しかし今では、似ているところが少しずつ増えてきたことを、嬉しく感じています。


そして、人生をともに歩んでくれている妻、成長した子供たち、新しい命として家族に加わった孫たち。


皆がいてくれることが、どれほど幸せなことなのか。


この物語を書き終えて、改めて感じています。


五代にわたる医師の家系というと、何やら立派な一族の物語のように聞こえるかもしれません。


しかし、描きたかったのは、決して特別な家柄や職業のことではありません。


親から子へ、子から孫へ。


受け継がれていくものは、職業や財産だけではないのでしょう。


何気ない口癖。


好きだった音楽。


物事を考えるときの癖。


誰かを思いやる気持ち。


そして、家族と過ごした、ありふれた時間。


そんな目には見えないものこそが、世代を超えて受け継がれていくのではないかと思います。


この物語を読んで、ご自身の父や母、祖父母、あるいは子供たちのことを思い浮かべてくださった方がいらっしゃれば、作者として、これほど嬉しいことはありません。


家族の形は、それぞれ違います。


幸せな思い出ばかりではないでしょう。すれ違いや後悔、言えなかった言葉を抱えている方もいらっしゃると思います。


それでも、私たちは誰かと出会い、誰かに支えられ、そして誰かの記憶のなかに生きていくのだと思います。


最後までお付き合いくださった読者の皆さまに、心から感謝申し上げます。


そして、この物語の主人公たちである、私の大切な家族に。


本当に、ありがとう。


古いパトローネに閉じ込められていたのは、単なる過去の風景ではありませんでした。


そこには、今の私につながる、かけがえのない時間が眠っていたのです。


皆さまのアルバムのなかにも、きっとそんな一枚があるのではないでしょうか。


どうか、時には古い写真を取り出してみてください。


そこには、忘れていた誰かの笑顔が、今も変わらず残っているかもしれません。


そして、もし大切な人が今もそばにいるのなら、写真のなかの思い出になる前に、ぜひ伝えてあげてください。


「ありがとう」と。


私も、これからは、できるだけそうしたいと思っています。




私たちの日常は、いつか誰かの大切な思い出になるのですから。

しゅんたろう as Augai Molitz

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