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パトローネはタイムカプセル 家族の肖像  作者: しゅんたろう as Augai Moritz


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13/13

パトローネはタイムカプセル (日常すれすれ Ep.35より)オリジナルのショートショート版です

納屋の奥で、埃をかぶった黒いケースを見つけた。


中には父の古い"Nikon"が収まっていた。


金属の冷たさと、うっすらと残る革ケースの匂い。軍艦部に誇らしく”F”の大文字。


父が若いころ大事にしていたカメラだ。




シャッターは固く、もう動かない。


裏底を開けてみると、一本のパトローネが全部撮影されることなく壊れたNikonFの中に入っていた。


何十年も前から時を止めていた小さなカプセル。




分解して油を差し、ギアを回すと、


「カシャ」と軽やかな音が戻ってきた。


この時代、近所にDPE店はない。


ネットで調べると、白黒もからーも現像液さえそろえれば、意外に簡単に現像できることがわかり、自宅で現像することにした。


ダークバックの中で感光しないように、リールに巻き取り、現像するためのBOXに収納すると


あとは、台所で、温度計とタイマーとにらめっこしながら化学の実験だ。ツーンと鼻をつく薬品の匂いの中、慎重にフィルムを現像する。




乾いたネガをデジタルスキャナーでスキャンする。




画面に浮かび上がったのは――




白骨温泉の駐車場。




トヨタ・コロナ1700DXの横で並んで立つ父と母。


父は、笑って母の肩に腕を回している。3脚を立て、セルフタイマーで撮影したようだ。


母は父に寄り添い、少し恥ずかしそうに笑っている。


まだ二人とも若く、


その笑顔は、今の自分の記憶よりもずっとやわらかかった。


カメラの製造年月日から推定すると、写真の中の父母は今の自分より一回りは若いようだ。


ファインダー越しに父に笑いかける母は、記憶にある母と違いスマートで美しかった。




この日は日帰り旅行だったと、聞いたことを思い出す。


自分は大学に入ったばかりで、家を出ていた。


写真の二人は、自分のいない時間を、


静かに、そして確かに楽しんでいた。恋人のように。




(まるでデートの様じゃないか!?こんなに仲良かったんだ(苦笑)




ちょっと見てはいけない家族の秘密を見たような気がした。




母はコロナ禍の最中、


病室で会うことも許されずに逝った。


「亡くなられました」という短い電話で、


最期を知らされた。


別れの言葉すら交わせなかった。




でも、この古いカメラは、


母が生きて笑っていた時間を、ちゃんと覚えていてくれた。


父と並び、風に髪を揺らしながら微笑む母を。




モニターに映る二人を見つめながら、


思わず声が出た。




「…おかえり」




その瞬間、画面の中の母が、


ほんの一瞬、まばたきをしたように見えた。


そして小さく唇が動く。




――ただいま。




耳ではなく、胸の奥で、その声を聞いた気がした。




気づけば、写真の中の母は、


記憶にある、いつもの笑顔で、ただそこに立っていた。(了) 2025. 8月10日 Upload

私小説版よりショートショートの方がシンプルでやはりよいですね!

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