鋳造所
納得したようにコクリと頷く智の横で、鈴木が「おい、納得すな」と言いたげに、そっと彼女の脇腹を肘で突ついた。
智は改めて、パイプ椅子に固定された男の身体をまじまじと観察した。
上半身のいたるところには、太い木刀か重い鉄パイプのような硬い鈍器で力任せに何度も殴打されたのであろう、どす黒い打撲の痕や皮下出血が、凄惨なグラデーションを描いて広がっている。
そして男の足元には、工業用の頑丈な金属製のバケツが置かれており、男の両足はそのバケツの中に無理やり突っ込まれた状態で固定されていた。
よく見れば、バケツから覗く男の足の皮膚は、重度の火傷によって白くぶよぶよに膨れ上がっており、水膨れが破れてドロドロに変解している。
それは、上半身の痩せ細った肉体とは、まるで別人の足であるかのように異様に肥大化して見えた。
「……工藤さん、そのバケツの中、もしかしてお湯?」
「お湯? そんな生温いもん、ウチの若い衆がわざわざ沸かすわけないやろ」
工藤は愉快そうに肩を揺らした。
「表の鋳造所から、炉でドロドロに溶けた一千数百度の鋳鉄をな、耐熱の柄杓でほんのひとすくい貰ってきたんや。で、コイツの足を突っ込ませたバケツの水の中に、その溶けた鉄の塊をそのままドボンと落としてやった。……一瞬で水蒸気爆発寸前の瞬間湯沸かし器の出来上がりや。ええ悲鳴上げとったで」
「なるほどね……。で、その状態で、知ってることは全部吐いたん?」
「これだけの目に遭わされて、まだ嘘つく根性がある奴がおったら……それはホンマモンの大アホか、あるいは歴史に残るレベルの漢やろな。まぁ、コイツは最初のひとすくいですぐに全部ゲロったけどな。……てか、オマエら、カタギのサラリーマンのくせに『これ』を目の前にして、ようそんな平然としてられるな? 少しはビビったらどうや」
工藤が不思議そうに智と鈴木の顔を交互に見る。智は、ふうと小さく息を吐き出し、呆れたように肩をすくめた。
「あー、あのね。生命保険とか損害保険の一般的な会社ならともかく、うちらの組織はそういう普通の保険屋とはちょっと訳が違うんで。……さっき車の中でも言うたやろ? 自分らより、こういう泥沼の結果を『見てきた数』だけは、桁違いに多いって」
実際、智の脳内は恐怖ではなく、冷徹な計算式だけで満たされていた。
バケツの中に漬けられている男の足は、間違いなく骨の髄まで達する重度のIII度熱傷、つまり完全な炭化の一歩手前を負っているだろう。摂氏一千度を超える溶融金属を水に放り込めば、水は一瞬で激しく沸騰し、逃げ場のないバケツの中で男の皮膚組織を内側から完全に破壊する。さらに、水底に沈んだ超高温の鉄の塊は、直接男の足の甲や足の裏に触れ、肉を焼き焦がし、足の骨を文字通りドロドロに焼き尽くしているはずだ。
上半身に見られる打撲痕も凄まじい。鉄パイプによる強打は、男の鎖骨や肋骨を簡単に数本は叩き折っているだろうし、指の骨もいくつか粉砕されているに違いない。手の甲に深く刺さっているドライバーにいたっては、拷問としての苦痛を与えるためというよりも、ショック状態で何度も意識を失いかける男の肉体に激痛を与え、無理やり「意識を繋ぎ止めて尋問を継続する」ための、極めて実用的な確認手段として使われた可能性が高かった。




