ヤクザ式ガチャ
「お疲れ様ですッ!」
中から現れたのは、頭を丸刈りにした若い組員だった。
彼は工藤の姿を見るやいなや、大股を開いて深く腰を落とす、まるで大相撲の力士が四股を踏む直前のような独特のポーズをとり、上体を直角に深く折り曲げて最敬礼の姿勢をとった。
極道社会特有の、過剰なまでの縦社会の礼儀作法だ。
工藤はその男の頭上から、「少し外に出てろ」と短く、冷徹に告げた。
「ハッ!」と若い衆は弾かれたように飛び出し、部屋を後にした。
重々しいドアが背後でバタンと閉まり、密室の静寂が戻ったのを確認してから、工藤は顎で部屋の奥を、親指で背後を指し示した。
「……ウチの若いのが、大至急で仕立て上げた特設会場や。見てみぃ」
そこには、一脚の安っぽいスチール製のパイプ椅子が置かれていた。
その椅子に座らされ、頭をがっくりと前に垂らした若い男がいた。
男は完全に全裸にされており、全身の肌は異様な紫色に変色している。
もし、その男の身体がパイプ椅子に太いガムテープやロープできつく縛り付けられていなければ、あるいは、そのパイプ椅子自体が地下のコンクリートの床に金属製のアンカー金具で頑丈に固定されていなければ、男はとっくの昔に重力に従って、前方へと無様に崩れ落ちていただろう。
智は男の動かない様子を一目見た瞬間、(まさか、すでにやってもうたんか!?)と胸の中で激しく焦った。
もし万が一、この場で男がすでに息絶えていた場合、それは共済会にとってただの「重大な殺人事件の事後処理」となり、最悪のコスト増を意味するからだ。
しかし、男の右手の甲に目を走らせた瞬間、智は小さな安堵の息を漏らした。
男の手の甲には、工具箱から引っ張り出してきたであろう錆びたプラスチック柄のドライバーが、肉と骨を貫いて深々と突き刺さっていた。
その傷口から、ドス黒い新鮮な血液が、今も微かに拍動に合わせてじわり、じわりと滴り落ちて床に小さな血溜まりを作っている。
その血の新鮮さが、男がまだ辛うじて生きていること、心臓が動いていることの動かぬ証拠だった。
智はドライバーの突き刺さる手の甲から少し視線を引いて、だらりと垂れ下がった男の指先を観察した。
(……ひー、ふー、みー、よー……。よし、とりあえず五本あるにはあるな。妙な向きに変形して曲がってるし、爪も何枚か剥がされて無くなってるけど、切断はされてへんわ)
「工藤さん。……本当に、この人が例の銃弾を撃ち込んできた本人なん?」
値踏みするような智の問いかけに、工藤は顔の皮膚を歪め、獲物を仕留めた猛獣のような凄惨な笑みを浮かべて応えた。
「間違いないわ。このアホ、一昨日の夜にキャバクラで、夜職の姉ちゃん相手に『俺がこないだ、あのデカい組の事務所に一発カましてやったんや』って、嬉しそうに鼻の下伸ばして自慢しとったらしい。
で、その嬢に、チップにたっぷり色付けて指名させて、姉ちゃんにゆっくり奥で話を聞かせたら、見事にコイツの個人的な犯行やってことが捲れたんや。あとは昨日の深夜に路上でガラ(身柄)引いてここに放り込んで……ちょっと毛色の違うキツめの『おうかがい』を立ててやったところや」
「で……結果はビンゴやった、と?」
「ああ。まぁ、もし人違いやったら、適当にその辺の山に埋めるか、また別の怪しい奴を引っ張ってきたらええだけの話やからな。……結果オーライ、一発必中やったわ」
工藤は事も無げに言うが、その内容は狂気に満ちていた。
工藤が胸を張る横で、智は鈴木にだけ聞こえる小声で「一発必中ゆーてるけど、ホンマやと思う?」と囁いた。
鈴木も視線を前に向けたまま、平然と口端を動かす。
「ガチャでも『出るまで回したら確率百パーセント』って言うやん?」
「あーね。詫び石……踏み倒すどころか、対抗組織に追加で課金させてそう」
二人の罰当たりなヒソヒソ話が聞こえたのか、工藤が「あん?」とドスの効いた声で眉をひそめた。
「何を心配しとんねや。もし人違いでも、あそこの炉に放り込んだら骨まで綺麗に蒸発して残らんから一緒や」
「あ……」
智はポンと手を打った。
「『ハズレ枠』は、もう蒸発してこの世におらんのやな……」




