処理場
その騒がしいメインの工場棟を通り抜け、敷地のさらに奥へと進んだ場所に、一棟の目立たない建物がひっそりと佇んでいた。
外見上は、どこにでもあるプレハブ風の二階建て。
一階は経理や事務を行うためのオフィスに見え、二階は遠方から出稼ぎに来ている作業員たちの寮か、あるいは臨時の休憩所のように使われているのだろう。
二階の窓際にある物干し竿には、使い古された作業用タオルやシャツがだらしなく干され、生活感をこれでもかと醸し出していた。
警察の目から見ても、単なる地方の零細企業の日常の一コマにしか映らないカモフラージュだ。
車を降りた工藤は、周囲を警戒するように鋭い一瞥をくれると、無言のまま建物の重い軽合金製のドアを開けた。
中に入ると、一階の事務スペースのいちばん奥の席に座っていた、作業着姿の初老の男が、驚いたように飛び起きる姿勢を見せた。
浅間組の協力者か、あるいは弱みを握られて場所を提供させられている一般人だろう。
工藤はその男に向けて何も言わず、ただ片手をすっと上げて動きを制すると、親指をぐっと下に向けて床を指し示した。
「下へ行くぞ」という無言のサインだ。
初老の男は、怯えたような、あるいはすべてを諦めたような表情で、やはり無言のままコクりと深く首を縦に振った。
智と鈴木は、工藤の背中にぴったりと従いながら、二階へと上がるための内階段の方へと進んだ。
だが、工藤は階段を上るのではなく、その階段の裏側にある狭いデッドスペースへと回り込んだ。
そこには、薄汚れたプラスチックのプレートで「TOILET」と書かれた木製のドアがあった。
工藤がそのドアノブを回して開ける。
だが、その向こう側にあったのは、当然あるべき便器や手洗い場などではなかった。
プレハブ風の安っぽい建物にはおよそ不釣り合いな、頑丈なコンクリートで固められた「地下への階段」が、暗闇の奥へと向かってぽっかりと口を開けていたのだ。
「……なるほどね。よくある隠し部屋ちゅうやつか」
智は小さく呟きながら、鈴木と顔を見合わせた。
鈴木は表情を一切崩さないまま、スーツのポケットに両手を突っ込んで、階段のステップを確実に踏み締めていく。
ひんやりとした湿った空気が足元から這い上がってくる。階段を下りると、すぐに重厚な鉄製のドアが行く手を阻んだ。
工藤が鍵を開けて進む。
少し歩くと、また同じような防音仕様のドア。さらにその先に、もう一つの頑丈なドア。
三重の防音障壁。
これだけ強固に密閉されていれば、地下でどれほど凄惨な悲鳴が上がろうとも、地上の鋳造所の爆音にかき消され、外部に音が漏れる可能性は完全にゼロだった。
最後のドアを工藤が力任せに押し開けると、そこには四畳半ほどの薄暗い、コンクリート打ちっぱなしの地下室が広がっていた。
その四畳半の空間の隅に、さらに一坪ほどの大きさで、グレーのコンクリートブロックを雑に積み上げて囲われた、文字通りの「檻」のような小部屋が存在していた。
工藤がその小部屋の重い鉄扉を拳で激しくノックし、低いドスの効いた声で「工藤や」と告げると、間髪入れずに内側からガチャリとロックが解除され、ドアが開かれた。




