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潮球  作者: カミツキ
3年目の海

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89/91

第89話 五人の幅

 笛が鳴った。

 四つの潮核が、二つの潮流へ分かれた。

 一つは沖側の速い潮流へ乗り、浮標に沿って横へ流れていく。


 優奈の目が、その一つを追った。

 すぐに、岸寄りへ残った三つへ戻る。


 七海も沖へは向かわない。


 心春は岩礁沿いの弱い潮流へ入り、凪は二番浮標の内側へ進んだ。


 反対側では、青い五人がほぼ同時に潜る。

 三次高校側の水面には、誰も残らなかった。

 三原中央側では、遥香が四つの潮核を見下ろしている。


 凪が浅い位置を進む一つへ手を当てた。

 手足と胸に、赤い発光ラインが一瞬つく。

 深い潮流へ落ちる前に軌道を持ち上げ、手を離した。


 心春が受け取る。


 赤い線が、心春の手足と胸へついた。

 三次高校の一人が近づき、心春の右足へ触れる。


 一秒。


 心春は潮核を抱え込まない。

 岸寄りの弱い潮流へ手を離す。


 半身先にいた優奈が受け取った。

 心春に触れていた選手は、優奈を追わなかった。


 その場へ残る。


 代わりに、隣の青い選手が半歩入り、優奈の左腕へ手を重ねた。


 一秒。


 優奈が潮核を離す。

 岸寄りの潮流に乗った潮核を、七海が拾った。

 弱い潮流から中央へ出た瞬間、横から水が胸へ当たる。

 七海の体が、半身だけ沖へずれた。


 正面には、もう次の青い選手がいる。

 進んだはずなのに、相手までの距離が変わらない。

 青い手が、七海の胸へ触れた。


 一秒。


 七海は右へ切る。


 肩が速い潮流へ入り、蹴った分だけ横へ運ばれた。


 二秒。


 七海は潮核から手を離した。


 ゴールゾーン側へ伸びる弱い潮流に乗せる。


 その先へ、別の青い選手が入った。

 潮核を受け取った手足と胸が、青く光る。


 七海は止まらない。


 残る一つへ向きを変えた。


 三次高校の保持者は、一人で前へ出なかった。


 一人分だけ進み、隣へ渡す。


 保持者が変わる。


 空いた場所には、その隣が半歩入る。


 潮核だけが、青い五人の間を進んできた。


 凪が息継ぎへ上がった。


「凪さん、中央!」


 遥香の声が届く。

 凪は息を吸い、そのまま潜った。


 心春は岸側へ残る。


 七海が外から戻る。


 優奈は、光っている選手ではなく、その隣を見ていた。


 三次高校の保持者が変わる。


 凪は右足で潮流を押し返しかけ、途中で止めた。

 そのまま蹴れば、体ごと沖へ運ばれる。

 左足へ重心を移す。

 流れの外側から、次の受け手へ滑り込んだ。


 潮核が来る。


 凪の手が触れた。

 赤い線が一瞬つく。

 軌道が下へずれ、潮核はゴールゾーンの外へ流れた。


 三次高校の最初の攻撃が切れる。


 スコアは動かない。


 残る潮核へ、両校が散った。


 三原中央が保持者を替えるたび、三次高校も守る相手を隣へ渡した。


 七海が一人を外へ引く。


 心春が空いた内側へ入る。


 凪が潮核を浅い位置へ戻し、優奈が受け取る。


 動きは切れていない。


 それでも、ゴールゾーンへ近づくほど、正面の青までの距離が元へ戻った。


 一人が動く。


 隣が埋める。


 その隣も、同じ幅を保つように寄る。


 優奈が息継ぎへ上がった。


「中央、詰まっています!」

「岸側を残してください!」


 遥香の声を聞き、優奈が潜る。


 心春は岩礁沿いを離れない。

 七海は中央へ寄りすぎず、次の受け手へ回る。


 凪が深い潮流へ落ちかけた潮核を、浅い位置へ押し戻した。


 三原中央は得点できない。


 三次高校も入れられない。


 時間が進む。


 七海が水面へ出た。


「七海さん、中央!」


 七海は一度息を吸い、青い五人の間へ戻る。


 優奈が岸側を保つ。

 心春が潮核を流す。


 凪が、その先へ入る。


 声は届いている。


 五人も動いている。


 それでも、三次高校の幅は変わらなかった。


 残り一分の表示が点いた。


 沖側へ流れた潮核は、区画の端へ近づいていた。


 三次高校も、誰も追っていない。


 外側にいた一人が、自分の位置で待っている。


 潮核が近づく。


 青い選手が手を伸ばした。

 発光ラインが一瞬つく。

 潮核の向きだけを変え、速い潮流から外した。

 内側にいた選手が受け取る。


 その選手も前へ泳がない。

 半身先へ潮核を渡す。


 次の青が光る。


 沖側へ流れていた一つが、三次高校の幅の中へ入った。


 優奈が先に反応した。

 速い潮流へ肩を入れる。


 一度蹴る。


 体は前ではなく、横へ運ばれた。

 もう一度蹴り、ようやく距離を縮める。

 その間に、優奈が離れた場所へ三次高校の一人が入った。


 中央が狭くなる。


 凪は青い保持者を見る。


 その隣。

 さらに隣。


 人ではなく、人と人の間を見る。


 右足を深く蹴らず、潮流の境目へ体を滑らせた。

 次の受け渡しを切る位置へ入る。


 三次高校は、そこへ渡さなかった。


 凪の手前で進路を変える。


 ゴールゾーン側にいた選手が受け取った。

 手足と胸に青い発光ラインがつく。

 心春が正面へ入った。

 三次高校の選手は、心春を抜こうとしない。

 岸寄りの弱い潮流へ潮核を沈め、自分の体をその上へ重ねた。

 心春の手が、右足の発光ラインへ触れる。


 一秒。


 潮流が二人をゴールゾーン側へ押した。

 心春は岸側へ体を戻そうとする。


 手は離れない。


 二秒になる前に、潮核がゴールゾーンへ沈んだ。

 得点ブザーが鳴る。


 スコア:三次高校 1-三原中央高校 0


 七海はブザーの方を見なかった。


 中央に残る潮核へ向かう。


 優奈も得点した選手を追わず、次の保持者を見た。


 心春はゴールゾーンから離れ、岩礁沿いの位置へ戻る。


 凪が浅い潮核へ触れた。

 赤い線が一瞬つく。

 深い潮流へ落ちる前に、岸側へ軌道を戻した。


 三次高校も一点で止まらない。

 五人の幅を戻し、残る潮核へ向き直った。


 三原中央も崩れない。


 七海が保持者の正面へ入る。


 優奈が次の受け手を塞ぐ。


 凪は、さらにその先へ回った。


 潮核はゴールゾーンへ届かない。


 第一ピリオド終了の笛が鳴った。


 スコア:三次高校 1-三原中央高校 0


 発光ラインが消える。


 両校が岸へ戻った。


 七海は階段を上がり、ゴーグルを額へ押し上げた。

 呼吸を整えながら、三次高校の方を見る。


 青い五人も、大きく間隔を変えずに岸へ向かっている。


「沖へ行った人、いませんでした」


 優奈が言った。


 凪は、区画の端から戻ってくる泡を見た。


「追ってない。来た場所で触っとる」


 陽が、岸から見ていた位置を指す。

「前へ出た後ろを、隣が埋めとった」

 芽衣が三次高校の選手を見る。

「持っとる時間も短い」

 花は腕を組んだまま、五人の間へ視線を動かした。

「一人抜いても、次がおるんじゃね」

「はい」

 遥香が答える。

「一人を抜いただけでは、場所が空きません」


 凪も、三次高校の選手ではなく、その間を見た。


 一人が前へ出る。


 隣が半歩入る。

 その隣も動く。


 五人は、また同じ幅へ戻った。


 第二ピリオドまで、あと三分。

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